『前立腺癌手術による勃起不全症、その予防と治療に関して日本性機能学会専門医が解説』

前立腺癌の手術によって発生する勃起不全症の予防、そして治療に関して解説

  • 前立腺癌の手術によって勃起不全症になる可能性が高い
  • その場合、他の原因によるEDよりも治療が難しい傾向がある
  • 予防としては、直接手術に関連する処置が主体
  • 代表的には片側神経温存、両側神経温存、ロボット支援手術が有る
  • 治療としては、バイアグラなどのPDE5阻害薬が第一選択となる
  • これが無効な場合、陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体注射などが検討される


前立腺癌の手術によって、高い頻度で勃起不全症が発生します。


実は、前立腺癌の標準的手術である根治的前立腺摘除術を受けた後で、 勃起機能に全く問題の無い患者さんは、たった20~25%に過ぎません。


その一方で前立腺癌の発症頻度自体は、日本国内で増加して来ているため、 ED患者さん全体における、前立腺癌手術後の割合は、段々と増えて来ている実情です。


しかし前立腺癌の手術後に発生する勃起不全症は、 勃起に関連したシステムの人工的な損壊が原因なので、 他の心因や生活習慣病などで発生するEDに比較して、 治療が難しい傾向は否めません。


本稿では、日本性機能学会専門医が前立腺癌手術によって発症する勃起不全症、 その予防と治療に関して解説をさせて頂いております。 宜しければご一読下さいませ。


<当ページの項目リスト>

  1. 【前立腺癌手術による勃起不全症の予防に関して】
  2. 【前立腺癌手術による勃起不全症の治療に関して】

1.【前立腺癌手術による勃起不全症の予防に関して】

ロボット支援手術

前立腺癌手術の合併症として発生する勃起不全症は、前述のとおり、 他の原因によるEDに比較して治療が難しい傾向があるため、 その治療よりも予防の方が重要と言えます。


こうした勃起不全の発症予防は 『直接手術に関連する処置』 また 『手術後の勃起リハビリテーション』 に大別されています。 しかし手術後の勃起リハビリテーションに関しては、その有効性がしっかりと確認されていない事もあり、 予防策は現状、直接手術に関連する処置が主体となっています。
こうした予防的処置には、片側神経温存、両側神経温存、ロボット支援手術などが有ります。


『片側神経温存』 とは、根治的前立腺摘除術において片側の勃起神経を温存する術式で、
『両側神経温存』 とは、その両側の神経を温存する術式になります。


日本国内における腹腔鏡を使用した50症例の根治的前立腺摘除術の報告では、 片側よりも両側温存の方が明らかに統計上、術後の勃起不全症の予防効果が高かったとレポートされております。


一方 『ロボット支援手術』 とは視野を拡大するスコープとロボットアームを組み合わせた手術方法の事で、 術野を小さく処置出来る事、また病巣と健常部分の見分けが容易になる事などから、 術後勃起不全の発症予防が期待されています。


これらの直接手術に関連した予防的処置は、全ての前立腺癌症例で選択できる訳では有りません。 前立腺癌自体の状態や癌に浸食されている周辺領域などによっては、これらを選択が出来ない場合も有ります。


また、あくまで前立腺癌の根治を主軸に考えるか、あるいは勃起不全などの術後機能障害を予防する事を主軸に考えるか、 こうした治療方針の違いも、これらの予防的処置の選択に寄与する要因となります。


2.【前立腺癌手術による勃起不全症の治療に関して】

PDE5阻害薬

前立腺癌手術の影響で発症した勃起不全症の治療については、 他の原因によって引き起こされたEDと同様に、 まずバイアグラなどのPDE5阻害薬が第一選択として検討されます。


これらPDE5阻害薬による治療がまず選択される理由としては、 他の勃起不全の治療方法に比較して 『使用が簡便で有る事』 また 『副作用が少ない事』 が上げられます。


しかし、前立腺癌手術後に合併する勃起不全症においては、 これらPDE5阻害薬を適正な用量用法で使用しても、残念ながら薬効が見られない事も、多々有ります。


年齢や罹病背景に適合した用量のPDE5阻害薬を、キチンとした服用方法で、複数回使用しても薬効が見られない場合は、 その他の勃起不全症の治療方法である 『陰圧式勃起補助具』 『陰茎海綿体注射』 『プロステーシス挿入術』 が検討されます。


『陰圧式勃起補助具』 とは、ペニスに陰圧をかけて血液を集めた後、ペニスの根元にゴムバンドを巻き、 擬似的な勃起状態を作り出すという、勃起不全症の治療方法の一つです。疑似的な勃起を作る事に関しては比較的成功率は高いのですが、 適切な指導の下に複数回の練習が必要な事と、あくまで疑似的な勃起にて 『冷たい勃起』 になってしまうなど、 いくつかの問題があり、実の所、ユーザー満足度はあまり高いものでは有りません。


『陰茎海綿体注射』 とは、ペニスに注射で血管拡張薬を直接投与する事で勃起状態を引き起こすという、勃起不全症の治療方法の一つです。 ペニスへの穿刺による疼痛が激しい事、また海綿体の繊維化など強い副作用が高頻度である事、 また我が国では勃起不全症の治療として承認されていない事などから、 この治療方法はごく一部の施設で、あくまで臨床試験として行われている状況になります。


『プロステーシス挿入術』 とは、プロステーシスと呼ばれるデバイスをペニスに手術的に埋め込むという、勃起不全症の治療方法の一つです。 埋め込まれたプロステーシスは、ポンプで空気を送りこむ事で擬似的な勃起状態を作り出す事ができます。 こちらは保険外の手術になるので、基本的な費用が高額な事、また感染などの手術合併症が少なくない事から、 実際にこれを受ける患者さんは多くは有りません。


これら陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体注射、プロステーシス挿入術は、PDE5阻害薬に比べると、 特殊な勃起不全症治療に該当するので、これらのご相談に際しては小さなEDクリニックでは無く、 性機能障害の外来を常設している大きめの病院をお勧めいたします。 また、これらの勃起不全症の治療方法には上記の様に、諸々の問題もあるので、 その適応は慎重にご検討頂きたく存じます。



以上、前立腺癌手術後に発生した勃起不全症、その予防と治療に関して解説させて頂きました。 上述の通り、前立腺癌手術後に発生する勃起不全症は治療が難しいので、 『事後の治療』 よりも 『事前の予防』 の方が重要性が高いと思われます。 前立腺癌の手術に当たっては、主治医の先生とよくよくご相談されますよう御願い申し上げます。



(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2020-08-25)


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