偽造バイアグラに纏わる短編小説



偽造バイアグラと不審死(フィクションです)

新宿でバイアグラは新宿ライフクリニック


あくまでフィクションですので、実話ではございません。
皆様を偽造バイアグラによる害から守るために、普及運動の一つとして掲載いたします。


3月某日、新宿。
3月に入ったというのに、やけに冷え込む朝だ。
もしかしたら、これからの仕事に気が乗らない事も、そう感じさせているのかもしれない...


新宿といえば、何を連想するだろう。
日本を代表とする、いや、世界的にも類を見ない巨大な街である。
駅の一日の利用者数は、ギネスにも登録されているほど、利用客数が多い。
新宿には、様々な人々があつまる。学生やビジネスマン、男と女、老いも若きも。
また、集まった人々の肌の色も様々だ。
ビジネス街である反面、繁華街でもある。
西口方面は、言わずも知れた、東京副都心であり、日本のビジネスの中枢をなしている。
日中は、多くのビジネスマンを見かける新宿も、日が暮れると別の一面を見せ始める。
その代表はやはり、歌舞伎町だ。夜になると、なんとも言えない、熱気であふれかえる。


先日、新宿歌舞伎町のラブホテルで事件があった。
風俗といえば、店舗型ではなく、客がホテルへコールガールを呼びつけたり、 客と待ち合わせた後にホテルに向かったりと、デリバリー型の風俗が全盛の時代。
いわゆるデリヘルと言われるやつだ。
実店舗がないため、なかなか、監視の目が行き渡らない。
届け出を行っているのもあれば、いかにもって感じの、いかがわしいのも存在する。
新宿はデリヘルの一大拠点になっている。
石原都知事も、躍起になって新宿歌舞伎町を浄化しようとしているが、人間の欲望がある限り、 この新宿歌舞伎町の熱気は、収まらないのだろう。
今回の事件は、いわゆるデリヘルが関わっている事件だ。


歌舞伎町の某ラブホテル従業員が、客の退室が2日間なく、さらに、飲食の注文もなく、怪しいと思い、 客室を訪ねるが応答なし。そこで、客室へ入って行ったところ、死体が発見された。
50歳台男性、普通のサラリーマン。
一見、いわゆる腹上死と同様な案件で、なんの面白みもなさそうだが。
最近、この周辺でよくある事件だ。


客の持っていた携帯電話から、すぐに、デリヘルを利用していた事が判明し、電話番号からデリヘルが特定。
ホームページを見ると、お嬢様系からギャル系など、手広く営業している。
ラブホテルから超高級ホテルまで、デリヘル嬢の派遣が可能だそうだ。監視の網の目をくぐって、ホテルへ入るのだろう。
営業主に事情聴取を行うとともに、接待にあたったデリヘル嬢から事情聴取も行った。


どこにでもいるような、かわいらしい、いまどきの女の子だ。
世の中、変わったものだ。洋服を買うお小遣いを稼ぐために、アルバイトをしていたそうだ。
ことの重大さに気づいていないようだが。


客とは、新宿駅東口で待ち合わせ。
その後、客とホテルへ。
サービスを行い、2時間程度で、ホテルに客を残し、その場を去ったらしい。
ホテル従業員も退出していく女性の存在には気付いている。
女性が言うには、もちろん、その時は、客は元気だったそうだ。
変わった事と言えば、客は、相当量のアルコールが入っていたとの事。
また、バイアグラを服用していたらしい。
そこまでの行動に怪しい所はない。
バイアグラの服用はよくあることだが...


検死の結果、今回の死因は、重篤な低血糖と判明した。
糖尿病治療薬であるグリベンクラミドが血中から高濃度で検出された。
またか...
実は、東京都内で、低血糖による死亡例が多数報告されている。
そのほとんどは、バイアグラやレビトラ、シアリスなど、いわゆるED治療薬を服用していたものだ。 当然ながら、全て偽造ED治療薬である。 ジェネリックと称されているものもあるが、基本的には特許があるために、まだジェネリックは市販されていない。 価格が安いからと言って、安易手を出すと、とんだしっぺ返しに会ってしまう。 命を落としては、どうしようもないが。


ラブホテルの部屋からは、偽造バイアグラと思われる包装が発見されている。
同様の案件で、なんども偽造品を見てきてはいるが、素人目には、 とても正規品と偽造品の区別できない。
以前は、見てすぐわかる偽造ED治療薬が多かったが、最近のものは、本当によくできている。
偽造バイアグラの製造と摘発の繰り返しが、偽造バイアグラを進化させてしまったのだろう。
バイアグラは、最近ではポピュラーだ。若い子たちは、バイアグラを服用して、 SEXを楽しんでいることも多いと聞く。
危険な薬剤ではないし、使用すること自体の問題ない。 クリニックで処方を受けた正規のED治療薬であればだが。
いわゆるドラッグを使用するよりかは、遥かにましだ。
ただ、偽造バイアグラは別だ。
新宿周辺で、偽造バイアグラ服用に伴う低血糖による死亡事件が非常に多く、 疑ってはいたが...


デリヘル嬢からの事情聴取から、客と新宿歌舞伎町のホテルに行く前に、タバコ屋へ寄った事がわかった。
しかもだ、そこでバイアグラを購入している。偽造バイアグラだ。
そのタバコ屋へは、そのデリヘル嬢が案内したこともわかった。
店から、案内するように、バイアグラ購入を勧めるように、指示されていたこともわかった。


デリヘル嬢の所属する店への調査は、もちろんのこと、そのタバコ屋への調査もしなければならない。


今日は、朝から、そのタバコ屋の調査だ。
そのタバコ屋は、普通の街角にある、どこにでもありそうなタバコ屋だ。
新宿では、タバコ屋自体が、少なくなってきているので、珍しいといえば珍しい。
繁盛してそうもなく、かといって、全く客が来ない感じでもない。


タバコ屋を訪ねると、そこには、老婆が座っていた。
人のよさそうな老婆だ。歳は70代後半と言ったところだろうか。
しかし、様々な人生経験を積んできた事が、その皺枯れた顔に表れている。
「おタバコ、いかがいたしましょう?」
と老婆は尋ねた。
私が、おもむろに警察手帳を見せると、少し驚いたようであったが、何かを察したようでもあった。
先日、偽造バイアグラを服用した男性が、歌舞伎町のラブホテルで異常死した事を告げると、すべてを理解したようだった。
「年取ると、膝やら腰やら痛くなっていやだね~」
任意同行していただいた。
これから署に帰って、このような老婆に尋問しなければいけないのか...
仕事とはいえ、気が進まないのも無理はない。


署では、尋問するでもなく、老婆の方から話し始めた。
ある日、チンピラ風男性がやってきて、「これを置いておくと、儲かるよ」とすすめられたそうだ。
偽造バイアグラだ。
老婆は、解っていたにもかかわらず、その男の話に乗ってしまった。
偽造バイアグラを、いままで6錠ほど客に譲っている。
あまり聞きたくはなかったが、様々な事情も話始めた。
夫は、脳出血を患っており長期入院中であること、年金も少なく生活費、 療養費が捻出できない、唯一の頼みであった一人息子は、交通事故で、 ずいぶん前に他界しているそうだ。


しかし、犯罪は犯罪だ。
偽造ED治療薬の販売。薬事法違反などなど...
たった、6錠の偽造バイアグラを販売して逮捕か... しかも生活のため、わずかでも稼ぎたい一心での行動。
法律の事は、専門家に任せるとしても、このような老婆に犯罪行為をさせてしまう、 この世の中、なにか間違っているのではないだろうか。


ここまででも、いろいろな事が推測される。
デリヘル業者と、タバコ屋に偽造バイアグラを持ってきた男は、なんらかの関係があるのだろう。
そして、ブローカーなるものが、黒幕として存在するのだろう...


このような事例は、実は日本だけにとどまらない。
香港、中国、シンガポール...
とてつもなく大きな、偽造バイアグラの販売シンジケートがあるのだろう。
一説では、偽造バイアグラで儲けた金は、 マフィアなどの活動資金になり、また、テロ組織の重要な資金源であったりするらしい。
偽造バイアグラを購入する事自体が、自らの体に危険を及ぼす、最悪、 死に至らしめることにも繋がりかねないし、 さらには、なんの罪もない子供たちが、大人の身勝手な理由の為に、 テロに巻き込まれたりするわけだ。
バイアグラを売って得た資金で殺されては、あまりにも報われないだろう。


ここに登場する人物や、話は、全てフィクションです。
実話ではございません。


written by 新宿でバイアグラなら新宿ライフクリニック.