バイアグラは統合失調症の陰性症状を改善する可能性がある



リスパダールとバイアグラを併用は統合失調症の陰性症状改善に有効

バイアグラを院内処方.新宿ライフクリニック


統合失調の症状は、陽性症状と陰性症状に分けられます。
陽性症状は幻覚や幻聴、妄想などに代表される目立ちやすい症状を指します。
これに対し陰性症状は、モチベーションがない、反応が鈍い、会話の減少や動作の緩慢さなどであり、 身体機能を低下させるもので、目立ちはしませんが、生活の質を陽性症状以上に低下させるものです。
この陰性症状に対する治療は陽性症状以上に難しく、これに効果的な薬剤の出現が望まれています。

統合失調症の原因としてドーパミンとNMDA受容体が関係しているとされます。
ドーパミンの作用は、NMDA受容体のコントロール下にあるともされ、NMDA受容体機能の低下は、 ドーパミンの作用を過度に発現させるとされています。
このことから、NMDAの作用を増大することは、新たな治療法につながる可能性が有ります。
実際に、この作用を有す薬剤は、陰性症状の改善と副作用の低減を示す可能性が有るとされます。

ED治療薬の中心的存在はPDE5阻害剤ですが、このNMDAに直接的に作用するのでなく、 サイクリックGMPを増加させることが、低下したNMDA受容体の機能を選択的に、 耐性を生じることなく補う可能性が指摘されています。
バイアグラ(シルデナフィル)は、血液脳関門を通過し、認知機能を増強し、 神経保護作用を有すことが齧歯類の動物実験で指摘されています。
実際の統合失調症患者による報告では、バイアグラでは、 動物実験で認められたこのような作用は認められておりません。
(統合失調症合併のED男性におけるEDに対してはバイアグラは有効とされています。)
しかし、バイアグラが統合失調症の陰性症状に有効である可能性が指摘されております。
統合失調症の治療薬であるリスパダール(リスペリドン)を付加することにより、 陰性症状を含め有効であるかどうか調査報告がございました。

18歳から45歳までの統合失調症患者40名(男性36名、女性4名)を対象に二重盲検により、 バイアグラの付加効果を調べています。
陽性陰性スコアPositive and Negative Syndrome score(以下PANSS)で症状を評価しています。 PANSSでは、サブスケールにより陽性症状と陰性症状を個別に評価する事が可能です。
抗精神薬でしばしば認められる錐体外路系の副作用の評価として、 錐体外路徴候評価スケールExtrapyramidal Symptoms Rating Scaleが用いられております。

40名の患者は無作為にリスパダール6mg/日+バイアグラ75mg/日群とリスパダール6mg/日+プラセボ群に振り分けられております。
これら投与前には、今まで服用してきた薬剤のウォッシュアウト期間として1週間の休薬期間が設けられています。
リスパダールは2mg/日より開始し、6mg/日まで漸増し、バイアグラは25mg/日より開始し75mgまで漸増しています。
被験者は2週間ごとに評価されています。

結果は、バイアグラを付加した群の方がこのPANSSが統計学的に有意に低下しています。 つまり、バイアグラにより統合失調症の治療上乗せ効果が認められております。
この差は、試験期間最後の8週時に最大となり有意な物となっております。
バイアグラ付加群の60%とプラセボ付加群の25%がPANSSの50%以上減少させたとの事です。
(当然ですが統合失調症治療薬であるリスパダール単独でも効果が認められます。)

陽性症状に関しては、2群間で有意な差が認められず、経過もほぼ同様な物だったそうです。

注目すべき陰性症状に関しては差が生じています。
やはり試験期間最後の8週時に最大の差が生じており、有意差が認められております。

その他の精神科的な症状は、やはり8週時に2群間に有意差となって表れております。

抗精神病薬に付物である副作用に錐体外路症状がございますが、この報告では、 プラセボ群において増悪傾向を示しましたが、統計学的有意差は認めておりません。

PDE5阻害剤は、バイアグラを筆頭にレビトラ、シアリスが2013年1月時点で本邦で市販されておりますが、 その作用機序から、サイクリックGMP経路に作用し、認知学習機能が改善する可能性が考えられております。 統合失調症患者に対しバイアグラを付加した報告が他にもございます。 その報告では、バイアグラによる改善効果は指摘されていませんが、 作用発現には、継続した服用が必要かもしれないとも考えられます。

バイアグラが陽性症状に効果が無かったとする報告は散見されていましたが、 陰性症状に関する報告は、珍しいと考えます。

実際に新薬の開発が進み陽性症状のコントロールが可能になるにつれて、陰性症状がクローズアップされます。 陰性症状は、陽性症状以上に患者負担を強いる場合がございます。
統合失調症治療薬は、進歩の著しい医療分野でありますが、殊、陰性症状に関しては、 まだまだ満足できる治療効果が得られているとは言えない状況です。
有病率からも、治療法を確立することは急務であり、治療が出来ない事は人類の損失でもあります。

より選択性の高いレビトラシアリスではどうなのでしょうか?
追加報告を望みます。


参考文献
Sildenafil adjunctive therapy to risperidone
in the treatment of the negative symptoms of schizophrenia :a double-blind randomized placebo-cntrolled trial.
Psychopharmacology(2011)213:809-815