薬でEDになる事が有ります。 そうした状態を薬剤性勃起不全症と言います。
薬剤性のEDは、新規発症の勃起不全の25%を占めると報告してる研究もあります。
しかし、本当に薬剤によってEDが起きているかを判定するのは、実は難しいです。 それには二つの理由があります。
一つ目の理由は、降圧薬と高血圧のように、クスリと、それがコントロールする疾患、どちらもEDを引き起こす原因の場合が有る事です。 この場合、どちらの責任が大きいのか判定する事は難しいです。
二つ目の理由は、EDは複数の原因が合併するケースが多い事です(例えば、喫煙 ・ 高血圧 ・ 降圧薬の服用が合併するような) 。 こうした場合も、いずれが主要な責任を持つのか判定する事は難しいです。
そうした事もあって、こちらのページでご紹介するお薬の中に、現在お飲みのものがあったとしても、 すぐに 「それがEDの原因だ」 とはなりません。 何卒ご注意下さいませ。こうした判定にはどうしても専門的な解釈が必要になって来ます。
こちらのページでは薬剤性のEDを引き起こす可能性のある、代表的な7種類のクスリに関して、 日本性機能学会専門医が私見も交えて、やさしく解説しております。
どうぞご一読下さいませ。
<当ページの項目リスト>
降圧剤とは、高血圧の患者さんに使用される、血圧を下げる機能を持つおクスリです。 降圧薬には数多くの種類がありますが、この内、いくつかの種類のものが薬剤性のEDを引き起こす可能性があると報告されています。
それは降圧剤の内の、 『利尿剤』 『カルシウム拮抗剤』 『交感神経抑制剤』 『β遮断剤』 です。 これらが降圧薬の中では勃起不全症を発症させる可能性が指摘されています。 その他、海外では 『アンジオテンシン変換酵素阻害剤』 『アンジオテンシン受容体拮抗剤』 も勃起不全症発症の可能性が報告されています。
なぜに、こうした降圧薬がEDを起こすのかと言うと、 高血圧の存在下に進行した動脈硬化によって、ペニスの血流が低下している所に、 降圧薬によって血圧が下がる事で、さらにペニスの血流が低下してしまう事が原因と推測されています。
しかし、仮に降圧薬によってEDの発症に至ったとしても、 高血圧の放置もまた動脈硬化によるEDをどんどん増悪させてしまうので、 お飲みの降圧薬をそのまま止める事はもちろん望ましく有りません。
勃起不全症の原因として、お飲みの降圧薬が疑わしい場合、 まずは持久力運動 ・ 食事の減塩 ・ 肥満の改善など、生活習慣の改善をもって自然に血圧を目標値に下げ、 その上で、今飲んでいる降圧薬の中止を主治医に検討してもらうのがベストです。
あるいはそれが難しいようであれば、現在お飲みの降圧薬から、比較的EDリスクの少ない降圧薬に、 切替える事を主治医の先生に検討して貰いましょう。
または、ニトロ系薬剤の処方など、勃起不全治療剤の禁忌が無いようであれば、 バイアグラなどED薬の服薬を検討しましょう。 これら勃起改善薬は、降圧専用の薬剤との併用は可能なので、 降圧薬の中止や切り替えが難しい時には、こうした併用使用も現実的な選択と言えます。
精神神経用剤とは、その名の通り、精神や神経に作用する機能をもったお薬の事です。 これも数多くの種類があり、この内のいくつかの種類のものが薬剤性のEDを引き起こす可能性を指摘されています。
そのいくつかの種類とは、 『抗うつ剤』の内、三環系抗うつ剤 ・ 選択的セロトニン再取込阻害薬 ・ モノアミン酸化酵素阻害薬 など、
また 『抗精神病剤』 の内、フェノチアジン系 ・ ブチロフェノン系 ・ スルピリド など、
また 『催眠鎮静剤』 のバルビツール系など、です。
これらの精神神経用剤がED発症の可能性を指摘されています。
なぜにこうした精神神経用剤が勃起不全症を起こすのかと言うと、 いわゆる性欲は勃起を起こすために必要不可欠な情動ですが、 そうした性欲を司る大脳辺縁系など中枢神経に、これらの精神神経用剤は抑制的に働く事があり、 その結果として薬剤性EDが引き起こされると推測されております。
しかし仮にこれらの精神神経用剤によって勃起不全症の発症に至ったとしても、 精神神経用剤をそのまま中止してしまうと、これらがコントロールしていた疾患が増悪してしまうリスクがあります。 また一部の精神神経用剤は急激に中断する事で、離脱症状を引き起こす可能性も有り危険です。
EDの原因として精神神経用剤が疑わしい場合は、 主治医の先生に、精神療法や心理教育など非薬物療法の併用下に、該当薬剤の減量や中止を検討してもらうか、 もしくは、交換が可能なようであれば、比較的EDリスクの少ない精神神経用剤に切替えてもらう事を検討してもらいましょう。
あるいは、バイアグラなどの勃起不全治療剤は降圧薬同様に、 精神神経用剤との併用が可能なので、精神神経用剤はそのままに弄らずに、 勃起不全治療剤を重ねて併用してみる事も検討可能と思われます。
ホルモン剤の中で薬剤性の勃起不全症を引き起こす可能性があるのは、 男性ホルモン自体、もしくはその作用を阻害する機能を持ったものです。
それは、エストロゲン製剤 ・ 抗アンドロゲン剤 ・ 性腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログ化合物など、です。 これらは主に前立腺癌の治療などに使用されています。
なぜにこれらのホルモン剤がEDの原因になるのかと言うと、 元々、男性ホルモンは勃起機能に重要な役割を持っているので、 その阻害はダイレクトに勃起不全の発症を引き起こすからです。
しかし仮にこれらのホルモン剤によってEDの発症に至ったとしても、 前述の薬剤達と同様に、これらのホルモン剤を中止してしまうと、 これらがコントロールしていた疾患が増悪してしまう可能性が出てきます。
勃起不全症の原因としてホルモン剤が疑わしい場合は、 主治医の先生に、ホルモン剤に代換する治療方法があるか検討してもらう、 あるいは、勃起不全治療剤は各種ホルモン剤との併用は問題無いので、 前述の薬剤達と同様に、バイアグラなどの勃起不全治療剤との併用を検討してもらいましょう。
抗潰瘍剤とは、胃や十二指腸などの消化性潰瘍の治療薬の事で、 これらの中にも薬剤性のEDを引き起こす可能性のあるものが指摘されています。
それは、スルピリド、メトクロプラミド、シメチジン等です。
この抗潰瘍剤に属するお薬達が、なぜに勃起不全を引き起こすかについては、 共通する機構として、明確になっているものは有りませんが、 一部の抗潰瘍剤で錐体外路症状など、神経の副作用を起こす事は、 あるいはEDの発症との間に関連性が有るかも知れません。
仮にこれらの抗潰瘍剤によって勃起不全が発生に至った場合は、 これらの抗潰瘍剤と代換しうる薬剤は比較的多いので、 主治医の先生に相談して、EDへの影響の少ないものに変更して貰いましょう。
脂質異常症治療薬とは、血液中の悪玉コレステロールや余剰の中性脂肪を調整する役割のお薬です、 これらの中にも薬剤性の勃起不全症を引き起こす可能性があるものが指摘されています。
それはスタチン系、フィブラート系と呼ばれる薬剤です。
これらの脂質異常症治療剤が何故にEDを引き起こすかに関して、 その機構は明確にはなっていませんが、 スタチン系の一部の薬剤では内分泌系の副作用として、 ごく低頻度ながら男性ホルモンの低下を来すものが有り、 こうした副作用が勃起不全症の発症に関連している可能性はあります。
仮にこれら脂質異常症治療剤によってEDの発症に至った場合、 これらと代換可能な薬剤はあるものの、それはスタチン系やフィブラート系ほど、 高機能なモノではないので、 代換した場合、運動療法や食事療法などの生活習慣改善によって治療を補う必要が出てきます。
呼吸器官・アレルギー用剤の内、気管支喘息やアレルギー症状を緩和させる薬剤の一部に、 薬剤性のEDを引きおこす可能性が有ります。
それはステロイド、テオフィリン、ベータ刺激剤、抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、などです。
このグループに関しては、性質が大きく違う薬剤が混在している事もあり、 勃起不全を引き起こす共通の機構は明確では有りません。
これら呼吸器官・アレルギー用剤に関しては、剤形なども含めてバリエーションがとても多いので、 仮にこれらの薬剤によって勃起不全症の発症に至った場合は、 主治医の先生と相談して、他の種類のお薬への交換を検討してもらっても良いかと思われます。
ただし、気管支喘息は慢性疾患であれども、時に命に関わる事も有りますので、 この場合は、あくまで原疾患のコントロール優先と考えましょう。
薬剤の交換が上手くいかない時は、やはりバイアグラなどの勃起改善薬の併用を検討して下さい。 呼吸器官・アレルギー用剤は基本的に勃起改善薬との併用で問題になるものはないと思われます。
消炎鎮痛剤とは、主に痛み止めもしくは熱冷ましを主な役割とする、炎症を押さえる薬剤です。 この消炎鎮痛剤の内、非ステロイド系消炎鎮痛剤が薬剤性EDを起こす可能性を指摘されています。
この非ステロイド系消炎鎮痛剤が何故に勃起不全を引き起こすかについて、 明確な機序は解明されていませんが、 この製剤の系統に低頻度ながら精神神経系の副作用がある事は、 薬剤性EDの発症になんらかの関連が有るのかも知れません。
非ステロイド系消炎鎮痛剤に関しては、代換しうる他の薬剤があるので、 仮に非ステロイド系消炎鎮痛剤によってEDの発症に至った場合には、 主治医の先生にその状況を説明し、代換薬の処方をお願いしてみましょう。
以上、薬剤性のEDを引き起こす可能性のある、代表的な7種類のクスリに関して、 日本性機能学会専門医が私見も交えて、概説させて頂きました。 これらの薬剤の中には、勃起不全を引き起こす機構が明確になっていないものも多く、 今後の報告が待たれる所です。
上記した全ての薬剤に関して言える事ですが、理由無く処方される薬剤は一切無いので、 決して自己判断でこうした服薬を中止したりせず、 薬剤の調整は、必ず主治医の先生に相談しながら、進めましょう。
自己判断による服薬の中断は時にとても危険な事が有ります。 なにとぞご注意くださいませ。
(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2020-04-28)
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