バイアグラ(シルデナフィル)の過剰摂取による障害 ― 医学論文からみる 『飲みすぎ』 の危険性 ―
バイアグラ (有効成分:シルデナフィル) は、ED (勃起不全症) の治療に効果があり、 また専門医の管理下にその適応ならびに用法用量をキチンと守って使用する範囲においては高い安全性が確認されている薬剤です。 しかしその一方、用法を守らず過剰な量を摂取した場合には、危険な状況が発生する事も危惧されます。
近年では本剤の間違った認識に基づく過剰摂取 (オーバードーズ) から、重篤な障害の発生も報告されており、 中には眼や脳、筋肉などに深刻な障害を残してしまうようなケースも確認されています。
基本的にバイアグラ (シルデナフィル) の過剰投与は、患者さんにおいて本製剤に対する間違った認識が前提としてあって、そうした行動が誘導されている節があり、 特に本剤を精力剤と勘違いしている患者さんにこうした過剰投与をしてしまうというケースが散見されています。 本剤は本質的には 『血管拡張薬』 なので、過剰投与をしたからといって、飲んだ分 性機能が改善すると言った単純な薬理システムでは全く有りません。
こちらのページではバイアグラ (シルデナフィル) のこうした用法用量を度外視した使用に警鐘をならす意味合いも込めて、
新宿ライフクリニックからシルデナフィル:バイアグラの過剰摂取による障害を報告した国際的な文献を3つ、
当院所属の日本性機能学会専門医よりご紹介させて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
バイアグラ (シルデナフィル) はPDE5阻害薬 (ホスホジエステラーゼ5阻害薬) というカテゴリーに所属する薬剤になりますが、 網膜においては 『5』 だけでなくホスホジエステラーゼ 『6』 も阻害するとされており、 これがバイアグラ (シルデナフィル) に低頻度な副作用として発生する視覚や色覚の異常を引き起こしているとされています。
ただしこれは、基本的には可逆的な状態で、たとえ過剰摂取によって発生した視覚や色覚の異常であったとしても、 従来の研究や報告においては、バイアグラ (シルデナフィル) を中止して24時間以内にはこの症状は完全に消失するとされていました。
しかし、こちらでご紹介する文献の症例においては、服薬中止の3ヶ月後も眼の症状が継続されていたとの事で、 その理由は過剰摂取なだけでなく、それがかなりの 『長期に渡った投薬』 であった事が原因になっていると本文献では推測されています。
症例は28歳男性で、自己判断でバイアグラ (シルデナフィル) 200mg (一回使用上限である50mgの4倍) をなんと2年間も持続して服薬しており、 1年前から持続する光視症 : 『視野内に光るもの(閃輝)が見える症状』 を主訴に受診されたとの事で、 この症例のmERG:多局所網膜電図、およびOCT(光干渉断層計)の検査においては、網膜光受容細胞の持続的な障害が確認され、 この症状は、バイアグラ (シルデナフィル) の服用を中止後、3ヶ月以降も消失してなかったとの事でした。
この症例でバイアグラ (シルデナフィル) の服薬中止以降もこうした症状が継続していたのは、 過剰摂取なだけでなく、それが超・長期に渡る事で光受容体外節の損傷が持続してしまった事がその原因になっていると推察されています。 本来はバイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取によって引き起こされる網膜光受容細胞の損傷は可逆的であるべきはずなのですが、 本症例では、薬物毒性に超・長期に渡ってさらされる事によって、眼障害が持続してしまったものとの事でした。
本文献においては、バイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取による網膜毒性のメカニズムについては更なる研究が必要であり、 シルデナフィルクエン酸塩の過剰摂取が超・長期に及んだ場合は、より未知の損傷が引き起こされてしまう可能性があると推測されています。 この事象から感じ取れる事としては、やはりバイアグラ (シルデナフィル) はキチンと用法用量を守る事がとても重要であるというメッセージになるかと存じます。
上記1.においては、超・長期に渡るバイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取による網膜への持続した障害についてご紹介をさせて頂きましたが、 こちらでは、一回当たりのバイアグラ (シルデナフィル) の超・高用量な過剰摂取による網膜への持続した障害に関してご紹介をさせて頂きます。
こちらの文献において、ご紹介させて頂いている症例は、30代前半の男性がなんと、バイアグラ (シルデナフィル) を一度に1800mg、 つまり常用量上限の36倍をも服薬されてしまったという内容に関しての報告となります。
この方はバイアグラ (シルデナフィル) を一度に1800mgも服薬された後、 2週間継続する視界のぼやけ・羞明 (通常の光でもまぶしく感じるという症状)・色の識別障害を感じるようになり、これらを主訴に病院を受診されました。
さまざまな検査の結果、この方はシルデナフィルの超・高用量の過剰摂取によって 『黄斑症』 が発症してしまった事が判明しました。 黄斑症とは網膜の中で明所視における視力および色の識別能の主体となっている部位 『黄斑』 に発生する障害全般を指し示す眼科疾患名になります。
バイアグラ (シルデナフィル) の服薬は無論中止となり、その後6ヶ月間の追跡調査において、患者の色覚とコントラスト感度は時系列的に有る程度の改善は見られたものの、 視野の欠損に関しては継続していたとの事でした。 上記1.にて記載させて頂いたように、バイアグラ (シルデナフィル) によって発生する視覚や色覚の異常は基本的には可逆的な状態で、 たとえ過剰摂取によって発生したものであったとしても、従来の研究においては、バイアグラ (シルデナフィル) を中止して24時間以内には完全に解消するとされておりました。 しかし本症例はこうした可逆的な状態ではなく、結果として 『不可逆的な状態』 となってしまいました。
こちらの症例においては、色覚とコントラスト感度の改善に長い時間がかかり、それらが有る程度改善した以降も、なお視野の欠損が残存したという 『不可逆的な状況』 があって、 これはバイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取の中でも 『常軌を逸した超・高用量』 であった事がその原因の主体となっているかと推察されます。
本症例の患者は医師の管理なしでバイアグラ (シルデナフィル) を入手し、本剤の服薬をご自身のみで管理されていたとの事で、 やはり専門医によるバイアグラ (シルデナフィル) の詳細な使用方法や注意点などのレクチュアが一切無いという状況は、 その事自体が極めて危険な状況であると言えるのではないかと思われる所です。
こちらの文献にてご紹介している症例におけるバイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取は、上記1.2.のまだしも性機能への運用を目的とした症例とは違い、 こちらは自殺を目的としたバイアグラ (シルデナフィル) の過剰摂取の症例に関してのものになります。
61歳の男性が自殺を意図して、バイアグラ (シルデナフィル) を3000mgと、なんと常用量上限の60倍をも服薬してしまい、 その1時間後にめまいと構音障害:『話しことばの語音が正しく発声されない状態』 を自覚して救急外来を受診されました。
様々な検査の結果、頭部MRIにて中大脳動脈の両枝に散在する急性発症の脳梗塞が診断され、 また血液検査と臨床症状からは横紋筋融解症:『この場合は薬剤性に骨格筋細胞が急激に破壊される病態の事』 が診断されました。
これは、自殺を意図してバイアグラ (シルデナフィル) を超・超・高用量にて過剰摂取するも、結果として命には別状はなかったが、 深刻な障害が残ってしまったというお話になります。
いずれにしても、この報告もバイアグラに対する間違った認識がこうした過剰投与を導いてしまった症例であると言えるかと存じます。
―Q1.「バイアグラ (シルデナフィル) は毎日飲んでも大丈夫なの?」
A. バイアグラ (シルデナフィル) は専門医の管理下に常用量を短期で服薬する分には問題は有りませんが、自己判断で過剰摂取、
それも長期に及んでしまう場合などはとても危険だと言えます。
一例として、文献上の症例報告で、バイアグラ (シルデナフィル) を200mgなどの高用量にて長期連日で摂取したケースにおいては、不可逆性の視覚障害の発生が報告されております。
―Q2.「バイアグラ (シルデナフィル) で発生する視覚異常は治りますか?」
A.常用量で発生する低頻度な副作用としての視覚障害ならびに色覚障害はほとんどのケースでは24時間以内に完全消失するとされていますが、
超・大量の過剰摂取や超・長期に渡る過剰摂取の場合は不可逆性の視覚障害・色覚障害に進展し、症状が長期化してしまう怖れが有ります。
―Q3.「バイアグラ (シルデナフィル) の個人輸入品でも過剰摂取は危険になりますか?」
A. はい。成分がシルデナフィルである限り、過量摂取のリスクはバイアグラ (シルデナフィル) と同じになります。
ただ 『個人輸入品』 の場合は、正規の企業が生産したものではないケースがほとんどなので、
本来は入っていない 『混入されている物質』 によって、バイアグラ (シルデナフィル) とは関係が無い、別種の様々な問題が引き起こされてしまう危険性も有ります。
一例としては、不衛生な環境で製造されたという影響で薬剤から病原性大腸菌が検出されてしまったり、
ED治療薬として全く不要な抗糖尿病薬が混入されていて低血糖事故が引き起こされてしまったりと、
個人輸入品のED薬による障害報告はそれこそ枚挙に暇が有りません。
―Q4.「バイアグラ (シルデナフィル) はどのくらいの量から危険ですか?」
A.バイアグラ (シルデナフィル) の摂取上限量は一日一回50mgまでになります。これ以上の用量では、副作用の増加だけではなく、
予想もしえないような障害の発生も危惧されます。例えばバイアグラ (シルデナフィル) の超・超・多量の過剰摂取の症例では多発性脳梗塞の発症なども報告されております。
1.Huichao Yan, Wenzhen Yu. Retinal toxicity of long term overdose of sildenafil citrate: A case report. American Journal of Ophthalmology Case Reports, 29 (2023): 101761.
※原著はこちら
2.Rebika Dhiman, Asmita Mahajan, Vinay Gupta, Shorya Vardhan Azad. Structural and anatomical changes in the retina associated with sildenafil citrate overdose. BMJ Case Reports, 2022.
※原著はこちら
3.Sechan Kim, Sungwoo Choi, Sangun Nah, Sangsoo Han. Multiple Cerebral Infarctions and Rhabdomyolysis following Sildenafil Overdose: A Case Report. Journal of Emergency Medicine, 2021.
※原著はこちら
(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-11-10)
※日本性機能学会について詳しくはこちら
※新宿ライフクリニックについて詳しくはこちら