元々、ED:勃起不全には、肥満、糖尿病、高血圧、喫煙、加齢など、複数の独立した危険因子が有ります。 この肥満や糖尿病・高血圧などの改善には、生活習慣における心肺活動を多用する 『持久力運動』 (ランニングやウォーキングなど) の導入が望ましく、 ED:勃起不全にとっては、これらEDの危険因子の改善を介した間接的な意味合いにおいても、 また直接的な意味合いにおいても、こうした持久力運動がEDの予防や改善に有効であるという医学的根拠はすでに確立されたものになります。
ただ、その一方で、持久力運動とは別のエクササイズカテゴリーである 『筋力トレーニング』 などの筋肉へのアプローチに関しては、男性の性機能に対して果たす役割や効果について、 まだまだ分かっていない所が多いと言えます。
しかし 「最近、筋肉が落ちてきたな...」 と感じられている男性で、それと共に 「勃起も弱くなってきたな...」 と性機能の弱体化を感じられている方、
これは実の所、少なくは無いかと思われます。
実は、こうした筋肉の量や質の低下と男性性機能との関連を説明できる医学的な根拠が段々と見つかって来ていて、
この 『筋肉量』 や 『筋力の低下』 それと勃起不全 (ED) との間には密接な関係性がある事がわかってきました。
全身重量の4割をも占める 『骨格筋』 は、他の組織に比べて安静時および活動時の両方において、継続的に高い代謝必要量を持つため、 糖尿病やメタボリックシンドロームなどに対しては、これらに拮抗しうる存在となり、 勃起組織の血管構造などを間接的に保護してくれるという可能性が期待されています。
Googleなどインターネット検索において 『ED、勃起不全、筋肉低下』 というセットアップでの検索が増えているとしたら、 こうした研究発表が累積し始めている事がその主な原因なのかも知れません。
こちらのページでは、3つの国際的な医学文献をもとに、 新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医からED:勃起不全と筋肉との関係について、わかりやすく解説をさせて頂いております。 宜しければご一読くださいませ。
男性ホルモンの主体であるテストステロンは 『筋肉』 にも、そして 『男性の性機能』 にも深く関わり、テストステロンの加齢性の分泌低下は、 既に認知されたED:勃起不全症のリスクファクターの一つでも有ります。 それでは、テストステロンを抜いた、筋肉とEDとの間の 『直接的な関係性』 とはどのようなものになるのでしょうか? こちらでご紹介する文献ではそうした部分にスポットを当てた報告をしております。
この文献における研究では、先行する複数の発表を横断的に解析し、その得たデータを元に、 筋肉とEDとの関連性に関して深く再検討をおこなっております。
その解析の結果として 『骨格筋の量』 とそして 『筋力』 は、代謝と血管内皮機能のメカニズムを介して、 特に高齢者、または糖尿病、肥満、サルコペニア(加齢などが原因となって筋肉の量や筋力が低下し身体機能が衰えた状態) などの併存疾患を持つ男性において、 健康な性機能に対し独立して寄与する存在である事が示唆されました。 つまり筋肉の存在やその質が、ED:勃起不全症などを遠ざけ健康な性機能を維持するのに役立っている可能性があるという事になります。
また高齢男性においては、筋力や骨格筋量の簡便な指標の一つである 『握力』 が勃起不全発症のリスクの低下と相関している事が示唆され (OR: 0.86 / 5 kg、95% CI 0.78-0.96) 、つまり握力が強いほど、ED:勃起不全になりにくいという可能性も確認されました。
これらの結果は、テストステロンの存在がある事で、筋肉が多い、またED:勃起不全になりにくいという、 テストステロンを間に挟んだ相関関係が成立している可能性が想定されますが、 本研究においては統計処理上、血清テストステロンを調整した後も、握力と 『国際勃起機能指標5 :IIEF-5』 のスコアとの間には独立した相関関係が維持されており (β = .169、P = .037)、 つまりテストステロンとは独立して、握力と勃起不全リスクの低下との間には相関関係が成立していると報告をしております。
この文献では結語として、筋肉の健康がED:勃起不全を遠ざける可能性がある事を解説しており、 性機能と筋肉の健康、このどちらをもターゲットとする新しい治療法が紡ぐ男性機能の未来に関しても語っております。
先行する研究においては 『筋肉量』 と 『筋力』 がトルコ人男性ならびに韓国人男性のED:勃起不全の重症度とそれぞれ有意に相関しているという内容が報告されておりますが、 こちらでご紹介する文献においては、これらアジア系の男性についてではなく、 北欧4カ国 (ノルウェー、デンマーク、アイスランド、エストニア) における48~75歳の2116名の男性被験者の筋力そして性機能との関係性について報告がされております。
この研究の目的は、EDなどを含めた男性性機能と一般的な心血管リスク因子、そして 『筋力』、これらの関連性を調査する所に有ります。 2116名の北欧の男性達は、詳細な質問票を用いて、年齢、身体計測値、BMI、運動習慣、喫煙歴、糖尿病・高血圧などの疾病、運動、筋力、 そして性機能 (朝の勃起回数の減少、性行為を行う能力/頻度の低下、性欲/性衝動の低下など) 、これらについての詳細な調査を受けております。
その結果、多変量ロジスティック回帰分析において、BMI、年齢、喫煙、糖尿病、高血圧は、性機能低下の報告オッズの上昇と有意に関連しており、 北欧男性においても既知のEDリスクファクターと同じ内容が性機能の低下やEDの発症と関わっている事が浮き彫りとなりました。 その一方で、筋力に異常がないと報告する人ほど、性機能低下の報告オッズが有意に低い事が示され、 この事から本文献においては、加齢を伴った男性性機能の様々な側面に、筋力の維持がプラスの影響を与えている事を推測しており、 筋力と筋肉量を維持するためのトレーニングは、男性性機能低下の予防的戦略における重要な補助手段となってくれる可能性が高いと、帰結をしております。
筋肉は加齢と共に萎縮するのが一般的で、30歳を過ぎると10年ごとに筋肉の萎縮の割合が増加していくと言われておりますが、筋力と筋肉量を増加させる能力、 いわゆる筋トレによる成果は、一般に加齢性の低下が認められず、これは生涯にわたって維持がされると報告されております。 すなわち、これはご高齢の方ほど、筋トレの必要性・意義が高いという事でもあるかと存じます。
なお本研究では、テストステロンを解析に含めていた場合、観察された 『筋肉の性機能低下に対する保護効果』 の結果が混乱してしまう可能性がある事が事前に認識されており、 これを説明するために、低テストステロンに関連する可能性がある 『髭の成長減少』 ならびに 『寝汗:ホットフラッシュの増加』 について統計上の調整を加え、 重ねて解析がされておりますが、上記の結論に関わる推定値はこの調整後も変化は見られなかったとの事でした。
フレイルとは 加齢とともに心身の活力 (運動機能や認知機能など) が低下し,複数の慢性疾患の併存などの影響もあって生活機能が障害されていき, 心身の脆弱性が顕在化して来ている状態とされており、これは 「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」の3つに分類がされます。
この中の 『身体的フレイル』 とは 「低骨格筋量と低筋力で定義される 『サルコペニア』 をベースとして、動く、食べるなどの日常生活を営むために必要な身体機能が衰える事」 と医学的に定義がされております。 この身体的フレイルの有病率は50歳以上のアジア地域住民で約11%とされており、その割合は加齢とともに上昇していきます。
こちらでご紹介する文献においては、骨格筋量と筋力の低下を内包するこの 『身体的フレイル』 と 『ED:勃起不全』 との関連性に関して研究をした内容について記載がされており、 「フレイル」「低筋量」「勃起不全」「高齢者」 というキーワードを用いて、1990年から2023年5月までの約33年におよぶ非体系的文献の膨大なレビューを網羅し、 既存の発表内容を大規模かつ横断的に解析した結果に関して報告をしております
その結果として、加齢によって悪化する虚弱、すなわち 『身体的フレイル』 の存在と 『ED:勃起不全』 の発症との間には、 統計解析上で、有意な関連性がある事が明らかになりました すなわち膨大なレビューを横断的に解析した内容においても、骨格筋や筋力の低下とED:勃起不全症の発症との間には関連性がある事が指し示されたのです。 特にこの研究では 『加齢性に進行する』 骨格筋や筋力の低下がED:勃起不全との関連性が高いという所が、重要なポイントと言えるかと存じます。
―Q1.「EDと筋肉との間には何かの関係があるの?」
A.はい。複数の研究にて 『筋肉量』 や 『筋力』 の低下が、EDのリスクを高めると報告がされております。
こうした状態の簡便な指標として 『握力』 は筋肉量や筋力の相対的指標としてEDリスクの有無を推定する要素となる可能性が有ります。
―Q2.「筋トレをすればEDは治るの?」
A.すべてのEDが筋トレで改善するわけでは有りませんが、適切な筋力トレーニングがED:勃起不全発症の予防に繋がってくる可能性が研究によって示唆されています。
なお筋力や骨格筋量は加齢に応じて自然に低下していくものですが、筋力トレーニングの効果自体は加齢を重ねても低下はしないとされているので、
より高齢であるほど、適切な筋トレがED:勃起不全の予防上、大事という可能性が有ります。
なお適切なランニングやウォーキングなどの持久力運動による年齢なりのED:勃起不全の改善に関しては、より明確な予防効果がすでに確立されております。
筋肉トレーニングをする上での注意点としては、間違ったトレーニングはむしろ逆効果となってしまう可能性が有る事、
また間違ったトレーニングは事故の原因となってしまう可能性がある事などがあげられます。
もしEDの改善を目的とした筋肉トレーニングをご希望されるのであれば、まずは専門のトレーナーにしっかりと指導をして頂く事をおすすめ致します。
―Q3.「テストステロンと筋肉、またEDとの関係とは?」
A.テストステロンは男性ホルモンを代表する内因性物質で、その役割は筋肉量を維持するだけでなく、性欲や勃起機能を支えてくれるホルモンでも有ります。
また認知機能の維持にも関わるとされており、テストステロンの機能は男性の肉体の様々なエリアに及ぶと言えます。
テストステロンは加齢によって生理学的に自然な低下が見られるものですが、適切な運動などでその分泌低下を有る程度軽減させる事も可能とされています。
―Q4.「筋肉へのサプリやプロテインはEDにも良い?」
A.これらについてはあまりにも多岐にわたるので、
『適切なもの』を『適切なタイミング』で『適切な量』でならば、と前置せざるを得ませんが、
これらが骨格筋や筋力の増加に有効である可能性は高いので、
間接的にはこれらがED予防にも役立つ可能性は有るかと存じます。
1.Exploring the link between muscle quality and erectile dysfunction: assessing the impact of mass and strength.
Journal:Sexual medicine reviews. 2025 Oct 04;13(4);643-651. doi: 10.1093/sxmrev/qeaf033.
Author:Michelle Duan, Beatriz Hernandez, Shane Kronstedt, John Donato, Gal Saffati, Niki Parikh, Mohit Khera, Gabrielle Lyon
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2.Muscle Strength and Male Sexual Function.
Journal:Journal of clinical medicine. 2024 Jan 12;13(2); pii: 426.
Author:Anders Flataker Viken, Silver Peeter Siiak, Vivi Schlünssen, Elin Helga Thorarinsdottir, Svein Magne Skulstad, Sanjay Gyawali, Randi Jacobsen Bertelsen, Francisco Gómez Real
※原著はこちら
3.Frailty and Erectile Dysfunction: An Understudied Correlation.
Journal:Archivos espanoles de urologia. 2023 Dec;76(10);755-763. doi: 10.56434/j.arch.esp.urol.20237610.91.
Author:Bellos Themistoklis, Stamatios Katsimperis, Ioannis Manolitsis, Panagiotis Angelopoulos, Sotirios Kapsalos-Dedes, Lazaros Tzelves, Konstantinos Livadas, Andreas Skolarikos, Charalampos Deliveliotis
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-12-01)
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