~バイアグラ (シルデナフィル) が脂質の調整や心不全を防ぐという新たな可能性~
ED (勃起不全症) の治療薬として知られる 『バイアグラ (シルデナフィル) 』 ですが、 実は高コレステロール血症などの脂質異常症の改善や脂質異常症における心筋細胞への保護、 また脂質異常症を伴う心不全への予防効果などに本剤が関与しているという研究結果が現在、増加をしている傾向が有ります。
こうした国際的な文献の存在がインターネットにおいて 「バイアグラ シルデナフィル 脂質異常症 コレステロール」 と言った組合わせの検索をする、その動機にもなっているようです。
こちらのページでは、3つの代表的な研究の文献 (動物実験・臨床試験・併用研究) をもとに、
ライフクリニック新宿からシルデナフィル (バイアグラ) が、
コレステロールなどの脂質代謝に及ぼす良い影響や脂質異常を伴う心臓に対して示す保護作用などに関して、
当院所属の日本性機能学会専門医より詳しくご紹介をさせて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
―研究概要
こちらでご紹介させて頂く文献には、脂肪分を過剰に含む脂肪強化食をラットに与え人工的に脂質異常症を誘発した状態にした上で、
バイアグラ (シルデナフィル) を5.625 mg/kgの量で投与し、30日目 45日目 60日目と長期間経過した状態での血液を採取し、
血液中の脂質プロフィールの変化について調査を行ったという実験に関して記載がされております。
―結果の概要
研究の結果、以下のような変化が認められました。
バイアグラ (シルデナフィル) が投与された脂肪強化食ラット群においては糖尿病や膵炎発症の原因ともなる中性脂肪 (TG) の値が有意な低下を示していました。
また直接的な動脈硬化症のリスクでもある悪玉コレステロール:LDLコレステロールに関しても有意な低下が確認されております。
しかし、ネガティブコントロールラットの血清において、これらの値がむしろ上昇を見せるようなケースもあり、
こうした状況に関しては、今後も研究の継続の必要があると本論文上でも示唆されております。
―研究者の考察
研究者らは 「バイアグラ (シルデナフィル) は血管拡張の作用だけではなく、脂質代謝調節にも関与している可能性がある」 と結論づけております。
この結果からは、脂質異常症や動脈硬化予防の新しい治療ターゲットとして、ED治療薬がこれに対して補助的に転用ができるかも知れないという可能性が示唆されます。
元々、悪玉コレステロール (LDLコレステロール) の高値などの脂質異常症には、 心臓の筋肉などへの脂質の異所性蓄積を副次的に引き起こしてしまう可能性があり、 これがいくつかの潜在的なメカニズムを介して、有害な脂肪毒性成分による心機能障害を引き起こし心不全を発症させてしまうような危険性が有ります。
その一方で、バイアグラ (シルデナフィル) などのPDE5阻害薬 (ホスホジエステラーゼ5阻害薬) は、 脂質代謝の調節と心不全の軽減、その両方において保護的な役割を果たす事が報告されております。
こちらでご紹介する文献に記載されている実験は、スウェーデン全国の患者データベースを活用した後ろ向きコホートの疫学研究と、 マウスを用いた動物実験の両方を組み合わせたものになります。 この実験の目的は 「コレステロールなどの脂質の異常を示す状況において、シルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害薬が心不全の発症を防ぐかどうか」 を明らかにする事でした。
まず後ろ向きコホートの疫学研究に関してですが、こちらはスウェーデン全国の処方箋登録簿から、脂質異常症の患者合計6837人を選出し、中央値7.5年の追跡調査をしています。 調査の結果、コントロール薬剤と比較して、シルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害薬の投与群では心不全のリスクが有意に低かったと報告されており (粗HR = 0.52、95% CI = 0.38〜0.72、調整HR = 0.64、95% CI = 0.46〜0.88)。さらに年齢別に層別化した解析においては、 このPDE5阻害薬の心不全に対する保護効果は主に若年成人において認められたとの事でした (調整HR = 0.47、95% CI = 0.31〜0.74)。 そして脂質異常症患者においてはPDE5阻害薬と心不全との間に有意な負の相関も認められました (調整HR = 0.56、95% CI = 0.40〜0.78)、 つまりシルデナフィル (バイアグラ) などPDE5阻害薬が入っている人ほど、心不全の発生が見られなかったという事をこの結果は示しております。
一方マウスを使った動物実験では、 マウスに慢性圧負荷の元で心機能障害が着実に進行する腹部大動脈バンディング手術を施し人工的な心不全モデルを作成したもの、 また高脂肪食を与えて人工的な脂質異常症モデルを作成したもの、またシルデナフィル (バイアグラ) が投与されているもの、 これらを組み合わせ、コントロール群を含めた5つのマウスのグループを無作為に作成したとの事でした。 その結果、心不全+高脂肪食のマウスにて見られた 『心筋細胞の肥大』 はシルデナフィル投与後に有意に減少したとの事で、 またシルデナフィルの投与は、TCH、TG、LDL-C値を含むマウスの高脂肪食によって誘発された脂質異常症を顕著に軽減させたとの事でした。
これらの疫学調査ならびにマウスを使った動物実験の研究結果においては、 バイアグラ (シルデナフィル) などのPDE5阻害薬が、脂質異常症における心不全を予防する新たな補助療法に使用出来るかもしれないという可能性を提示しました。 つまりシルデナフィルは、ED治療薬という枠を超え、脂質異常から発生する心不全という 『病態の悪い連鎖』 を断ち切るための補助ができる可能性が有るという事になります。
悪玉コレステロール (LDLコレステロール) が高値を示す脂質異常症は、 EDのリスク因子の中でも、ED発症との関連性に医学的な根拠が有りながらも、 他のリスク因子である糖尿病や高血圧に比べると、あまり強調がされていない印象です。
こちらでご紹介させて頂く文献における研究においては、脂質異常症がある上でバイアグラ (シルデナフィル) が効果を示さない患者さん131名を対象に、 長期に渡って高コレステロール血症の治療薬であるアトルバスタチン (スタチン系薬剤) を投与し、 バイアグラ (シルデナフィル) の効果がその後どうなっていくかについてを検証しております。
結果として12週間にわたりアトルバスタチンを投与された群においては、コントロール群と比較して、国際勃起機能指数質問票の5項目版:IIEF-5のすべての質問項目 (P=0.01)、 ならびに全般的有効性質問票:GEQ (P=0.001) の両者において有意な改善が示され、シルデナフィルの効果がアトルバスタチンによって改善された事が確認されました。 この傾向は軽度から中等度のED患者さんよりも、中等度から重度のED患者さんにおいて、より肯定的であったとの事でした。 つまり、この結果は脂質異常症があり、中等症から重症のEDを持つ方においては、積極的な脂質異常症への治療介入が、 バイアグラ (シルデナフィル) の効果を改善させてくれるという可能性がある事を示唆しております。
―Q1.「バイアグラ (シルデナフィル) を飲むとコレステロールが下がるのでしょうか?」
A. 医薬品として 「コレステロールを下げる」 効能が認められている訳では有りませんが、
動物における実験では、これら脂質の状態が長期間のバイアグラ (シルデナフィル) の投与によって改善された事が報告されています。
―Q2.「バイアグラ (シルデナフィル) は高コレステロール血症の薬剤であるスタチン系と併用しても大丈夫ですか?」
A. 医師の管理下において、バイアグラ (シルデナフィル) とスタチン系を併用する事には問題は有りません。むしろ研究では長期間のスタチン投与による脂質異常症の改善によって、
バイアグラ (シルデナフィル) の効果も改善されたと報告がされております。
―Q3.「バイアグラ (シルデナフィル) は脂質異常症や心臓疾患のある人でも使えますか?」
A. バイアグラ (シルデナフィル) は医師の管理下において、脂質異常症の有る方が使用する事については問題はありませんが、
心臓に関して、その心血管に問題がある方、または不整脈がある方などは、その使用が禁忌に該当する可能性がありますので、
まず日本性機能学会専門医など専門の医師とご相談の上で、その使用の可否を検討する必要性が有ります。
1.1.Abubakr M El-Mahmoudy, Saad M Shousha, Hussein Abdel-Maksoud, Omayma Abouzaid Effect of long-term administration of sildenafil on lipid fractions in hyperlipidemic rats. PubMed, 2023.
※原著はこちら
2.Huang W., Yang X., Zhang N., Chen K., Xiao J., Qiu Z., You S., Gao Z., Ji J., Chen L. PDE5 inhibition mitigates heart failure in hyperlipidemia. Biomedicine & Pharmacotherapy, 175 (2024): 116710.
※原著はこちら
3.F Dadkhah, M R Safarinejad, M A Asgari, S Y Hosseini, A Lashay & E Amini. Atorvastatin improves the response to sildenafil in men with hypercholesterolemia and erectile dysfunction. International Journal of Impotence Research, 2022.
※原著はこちら
(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-11-03)
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