―最新の研究で見えてきたバイアグラの意外な作用―
PDE5阻害薬 (ホスホジエステラーゼ5阻害薬) である勃起改善薬:バイアグラ(一般名:シルデナフィル)が所属する 『PDE阻害薬 ファミリー』 では、 cAMP または cGMP を加水分解する能力、組織および細胞内への分布の仕方、ならびに薬理学的阻害剤に対する感受性、これらがそれぞれ分かれております。 これらのPDE阻害薬は近年、臨床的にも、また前臨床的モデルにおいても、ED (勃起不全症) などの性機能障害だけでなく、肺高血圧症、前立腺肥大症、大うつ病、慢性閉塞性肺疾患、乾癬など、 さまざまな病態に効果がある事が示されており、特に近年その薬理作用が 「痛み (疼痛) のコントロール」 にも関与しているという可能性が注目を集め始めております。
こうしたED (勃起不全症) の治療薬として世界的にも使用されているバイアグラ : シルデナフィルにおける意外な効果についての研究発表の集積が、 昨今のインターネット検索上において 「シルデナフィル、バイアグラ、痛み、疼痛、コントロール」 といったワードセットの検索頻度上昇に関連している可能性が有ります。
こちらのページでは、新宿ライフクリニックからシルデナフィル: バイアグラ と疼痛制御との関係に関して、記載がされている3つの主要な科学文献を
当院所属の日本性機能学会専門医から、一般の方にもわかりやすく解説をさせて頂いております。
宜しければご一読下さいませ。
糖尿病に合併する糖尿病性神経障害や交通事故などによる外傷を原因として、神経障害に起因した痛み : 神経障害性疼痛 が発生してしまう事があり、 こうした慢性的疼痛は、臨床の現場でもそのコントロールに難渋する事が多々ございます。 このような状態には、モノアミン取り込みに作用する抗うつ薬なども第一選択治療薬の一つになり、 これも本来の適応から外れた活躍を示す製剤と言えます。
こちらでご紹介させて頂く文献においては、ラットの坐骨神経主枝に手術的にカフを挿入する事で神経障害性疼痛を人工的に引き起こされているラットのモデル群、 そしてその対照群として手術はすれどもカフが挿入されていないコントロール群、これらをそれぞれ用意し、 そのそれぞれに対してバイアグラ : シルデナフィルを始めとする 『PDE阻害薬 ファミリー』 を投薬して、その薬理学的スクリーニングを行った実験について記載がされております。
その結果、選択的PDE5阻害薬であるバイアグラ:シルデナフィルはこの人工的に発生させた神経障害性疼痛 : 機械的過敏症を有意に改善させました。 (n = 5/群、事後検定:* p < 0.05、*** p < 0.001 vs. Cuff Veh Ipsi)。 この改善は濃度依存的であったとの事でしたが、興味深い事に7.5 μg/kgという低用量でも疼痛改善の効果が確認されたとの事でした。 このPDE5阻害薬であるシルデナフィルの痛みのコントロールにはμおよびδオピオイド受容体の両方が優先的に関与していたとも報告されています。
先行する別の研究においてPDE5阻害薬であるバイアグラ : シルデナフィルは、末梢神経損傷だけでなく、疼痛性糖尿病性神経障害やアルコール誘発性神経障害においても、 その機械的過敏症を軽減させる事が提示されており、本研究も先行するそれらの研究と同様なベクトルの結果を示す事に成功しております。 ただし以前の研究結果においては、バイアグラなどのPDE5阻害薬は低用量でも炎症性の疼痛が緩和されるのに対して、 一方の高用量の投与においては逆に痛覚過敏が悪化するような状況も報告されておりますので、 本剤による疼痛のコントロールの評価に関してはまだ注意が必要な点も多々有るかと存じます。
本研究は、バイアグラ:シルデナフィルなどのPDE5阻害薬が神経障害性疼痛の治療において役立つという可能性に関して言及をしております。
プレガバリンは日本での商標名をリリカ®と言い、適応にまさに 『神経障害性疼痛』 そして 『線維筋痛症に伴う疼痛』 を持つ、強力かつ優秀な痛み止めになります。 しかし本剤には残念ながら薬物依存を発生させてしまうような危険性もあり、その使用においては依存の兆候がないかどうかを慎重に経過観察する必要性も有ります。 すなわちこの痛み止めにおいては、そうした危険性を踏まえると、痛みをコントロールしつつ、その使用量をセーブする事ができるのであれば、それはとても望ましい事とも言えます。
一方のシルデナフィル : バイアグラは局所血管拡張薬作用を持つ勃起改善薬に過ぎないので、 ツールとしての利便性からの 『依存心』 が出てしまうのはさておき、プレガバリンのように、 現実的に慎重な経過観察を要するような 『身体依存性』 については確認がされていない製剤です。
こちらでご紹介させて頂く文献においては、人為的に足の損傷を引き起こした神経障害性疼痛モデルのラットに対して、 対照群として生理的食塩水が注入されたもの、数種のプレガバリン用量がそれぞれ注入されたもの、中用量から低用量のプレガバリンにシルデナフィルを合わせて注入されたものなど、 複数の種類の投与を行い、神経障害性疼痛のコントロール状況の変化を客観的に観察した実験に関しての記載がされております。 神経障害性疼痛のコントロールは 『足の行動』 『損傷した足と損傷していない足の間の足引っ込め閾値』 など、これらの指標を総合的に各種統計にて解析し、 その結果の判定がされております。
そしてその結果ですが、カテゴリーモデルでは、バイアグラ:シルデナフィルの併用により、プレガバリンの濃度反応関係が低濃度側に有意にシフトする事が示されました。 同様に、連続の薬物動態-薬力学のモデルにおいては、シルデナフィルの存在下で必要なプレガバリンの量が減少する事が示されました。 これらの結果から、プレガバリンとシルデナフィルの間には薬力学に対する相乗的相互作用が存在すると結論付けられており、 依存性のある痛み止めであるプレガバリンの必要量をシルデナフィル : バイアグラの併用によってセーブする事が出来るかも知れないという、 シルデナフィル : バイアグラにとっては将来性のある結果が提示されました。
医療用モルヒネは本質的にアヘンアルカロイドに属する 『麻薬』 であり、癌性疼痛などにも利用される、この世で最も強力な痛み止めの一つです。 ただその身体依存性は上記文献2.のプレガバリンの比では無く、また重篤な呼吸抑制・けいれん発作など、数多くの危険な副作用が有り、 痛みのコントロール方法としては最後の手段に最も近いものとも言えます。
ゆえにモルヒネの痛み止めとしての効果を補助する薬品などが存在し、仮にモルヒネの使用量を必要最小限に抑える事ができるのであれば、 その薬剤は除痛を必要とする医学の全方位において有意義なものと言って良いかと存じます。
こちらでご紹介する文献においては、ラットに対する複数の疼痛試験を介して、複数の用量/投与経路のシルデナフィル単剤投与、 ならびにモルヒネとシルデナフィルの併用での投与、これらによって疼痛試験の結果がどのように変化していくかを追跡した実験について記載がされております。 この実験の目的は、PDE5阻害薬 (バイアグラ:シルデナフィル) とモルヒネの、末梢神経における相互作用の可能性について調査をする所に有ります。
その結果としてバイアグラ:シルデナフィルは単剤としても有意に抗疼痛効果を示し、 またモルヒネと併用した場合はモルヒネを単剤で使用するよりも抗疼痛効果を有意に増強させました。 ただしこの抗疼痛効果はシルデナフィルを全身投与では無く、局所へ投与した場合に発現したものとの事でした。
このシルデナフィル:バイアグラのモルヒネへの補助作用、ならびに単剤での痛みへのコントロール作用は 先行する研究と同様に、本剤の持つ一酸化窒素(NO)/cGMPシグナル伝達経路が疼痛処理になんらかの役割を果たしている事が関連していると本文献では推察がされております。 また本剤によるモルヒネの反応の増強はおそらくcGMP分解の阻害を介してのものと推察が重ねられております。
―Q1.「バイアグラは実際に鎮痛薬として使われているの?」
A. 現時点では日本を含め臨床で 『鎮痛目的』 での使用は認可されておりません。ただし、動物実験においては明確な効果が報告されております。
―Q2.「どうして痛みを抑える効果があるの?」
A.シルデナフィルが関わる一酸化窒素(NO)/cGMPシグナル伝達経路が痛みのコントロールに関与をしていると推察がされております。
―Q3.「モルヒネなどと併用しても安全?」
A. 動物実験では医療用モルヒネと併用する事でモルヒネの痛み止めとしての効果を上げる事が出来ると報告がされておりますが、
人間での、この併用における効果そして安全性に関してはまだ十分には検証されておりません。
バイアグラ:シルデナフィルを医師の指導なしに医療用モルヒネなどと併用する事はくれぐれもされませんようお願い申し上げます。
―Q4.「バイアグラを飲むと痛みが軽くなるの?」
A.動物実験では本剤の痛みへのコントロールに対しての効果が認められております。
人間に応用するには、まだまだ臨床実験が足りないのと、
バイアグラ:シルデナフィルと痛みのコントロールとの間の因果関係に対する化学的な解釈が足りていない所が見うけられるようです。
1.Antiallodynic action of phosphodiesterase inhibitors in a mouse model of peripheral nerve injury
Journal Neuropharmacology. 2022 03 01;205;108909. pii: S0028-3908(21)00466-4.
Author:Salim Megat, Sylvain Hugel, Sarah H Journée, Yohann Bohren, Adrien Lacaud, Vincent Lelièvre, Stéphane Doridot, Pascal Villa, Jean-Jacques Bourguignon, Eric Salvat, Remy Schlichter, Marie-José Freund-Mercier, Ipek Yalcin, Michel Barrot
※原著はこちら
2.Pharmacokinetic–Pharmacodynamic Analysis of the Static Allodynia Response to Pregabalin and Sildenafil in a Rat Model of Neuropathic Pain
NEUROPHARMACOLOGYVolume 334, Issue 2p599-608August 2010
Author:Gregor Bender ∙ Jeffry A. Florian, Jr. ∙ Stephen Bramwell ∙ … ∙ Joost DeJongh ∙ Robert.R. Bies ∙ Meindert Danhof
※原著はこちら
3.Sildenafil, a Phosphodiesterase-5 Inhibitor, Enhances the Antinociceptive Effect of Morphine
Pharmacology (2003) 67 (3): 150–156.
Author:Naveen K. Jain; C.S. Patil; Amarjit Singh; Shrinivas K. Kulkarni
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-11-24)
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