アルコールは元よりED:勃起不全症の重要なリスクの一つであり、 高濃度のアルコールは陰茎の勃起を減少させ、性的能力を低下させるとされていて、 こうしたアルコールによって誘発される一過性の性機能障害は、血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の酸化ストレスならびに自律神経系への悪影響によって引き起こされると考えられて来ました。
その一方で、慢性的なアルコールの摂取障害である 『アルコール依存症』 は、飲酒に対するコントロールを喪失してしまい、 それによって身体的・心理的・社会的な健康を失ってしまうという精神的疾患であり、 上記したEDに対するアルコールの短期的なリスクとはまた別に、 慢性的なEDのリスクを、引き起こしてしまう可能性が以前より指摘されております。
厚生労働省研究班が実施した飲酒実態調査においては,アルコール依存症の基準を満たしている者または満たした事のある者、 この合計は109万人と報告がされております。 アルコール依存症は依存症の中では最大数の疾患概念であり、本疾患とED:勃起不全との関連性の報告の累積は、 インターネットユーザーにおいて 「ED 勃起不全 アルコール依存症」 というセットアップでの検索の増加に寄与しているのではないかと推測されます。
ちおみに、アメリカ精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計のマニュアルである『DSM』の現段階での最終版であるDSM5においては、 アルコール依存とアルコール乱用が概念的に統合され 『アルコール使用障害』 に名称が統一されておりますが、 本項ではわかりやすさを重視し、文中では 『アルコール依存症』 と表現をさせて頂いております。
こちらのページでは、ED:勃起不全とアルコール依存症 (アルコール使用障害) との関連に関して記載がされている国際的な近年の文献を3つ、
これに私見を添えて、新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医から、わかりやすくご紹介をさせて頂いております。
宜しければご一読下さいませ。
以前よりアルコール依存症は、アルコール性肝機能障害などと独立して、慢性的なEDのリスクとなってしまう可能性が指摘されておりますが、 それではアルコール依存症の人の中には、どのくらいのED:勃起不全の方がいるものなのでしょうか?
こちらでご紹介させて頂く文献においては、こうしたアルコール依存症の方におけるED:勃起不全症の頻度、 また特定された 『アルコール依存症にED:勃起不全症を合併している方』 への1ヶ月間の禁酒によるEDの改善効果の有無、 これらの内容に関して記載がされております。
この研究では募集した203名のアルコール依存症などのアルコール使用障害の方を対象に、 国際勃起機能指標5(IIEF-5)を用いてEDが有るかどうかをまず評価しております。
その結果、203名の対象者の内、軽度EDが28.1%、軽度から中等度のEDが24.1%、中等度のEDが9.9%、重度のEDが6.4%で、 合計で、なんと 『68.5%』 つまり過半数の方が、診断上のED:勃起不全症に該当していたとの事でした。
その上で、EDの診断が該当するアルコール依存症などのアルコール使用障害の方に、1ヶ月間の禁酒を指示し、その結果をフォローした所、 統計学的に有意なレベルのED:勃起不全症の改善が見られたとの事でした。
本文献ではアルコール依存症におけるEDの発症はポピュラーな問題であるという知見、 ならびに1ヶ月間の禁酒によりEDが有意に改善しうるという調査の結果、このそれぞれについて提示しており、 特に1ヶ月間の禁酒によるEDの有意な改善という結果は、アルコール依存症の方においては、 禁酒を開始するためのモチベーションの補強上、とても重要なインフォメーショと思われました。
上記、文献①においては、アルコール依存症などのアルコール使用障害の方で、ED:勃起不全を合併している方に1ヶ月間の禁酒をしてもらった所、 統計的に有意なED:勃起不全の改善が見られたと報告されておりました。 それではその三倍である 『3ヶ月間』 におよぶ長期の禁酒では、どの程度EDが改善されるものなのでしょうか?
こちらでご紹介する文献においては、アルコール依存症などのアルコール使用障害、ならびに顕在化しているED (勃起不全症) このどちらにも罹患している104名の方に、 3ヶ月間の禁酒を指示し、その禁酒開始前後の国際勃起機能指標5(IIEF-5)のデータを比較した研究について記載がされております。
その結果、3ヶ月間の禁酒の後で、なんと対象者104名の内、92名つまり88.5%の方でEDの有意な改善が見られたとの事でした。 この改善はウィルコクソンの符号順位検定という統計手法によって有意なものである事が確認され(Z = 8.708、P < .001)、 また関連性を評価するためにカイ二乗検定を、また禁酒3ヶ月後の変数の有意性を判断するためにロジスティック回帰分析を、それぞれ使用しているとの事です。
なお、この結果には 『アルコール性肝疾患がない』 『年齢が若い』 『飲酒期間が短い』 『1日あたりの標準飲酒量が少ない』 といった要素が、 禁酒によるEDの改善に有意な影響を与えている事も追記されております。
文献①の結果は、アルコール依存症にEDを併せ持つ方への禁酒 『開始』 へのモチベーション扶育に有用な情報と言える一方、 こちら文献②の結果は、アルコール依存症にEDを併せ持つ方の、禁酒への 『継続』 支援に有用な情報と思われました。
冒頭にて記載させて頂いたように、高濃度のアルコール摂取によって、 一過性の血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の酸化ストレスならびに自律神経系への悪影響が発生し、その結果として一過性のEDが引き起こされると考えられています。 それでは 『慢性的』 な障害である所の 『アルコール依存症』 の方の場合、どのようにしてED:勃起不全症が発症するのでしょうか?
ちなみに、勃起の機構をごくシンプルに解説致しますと、まず自律神経を介して脳から送られた勃起の指示によって、陰茎の海綿体が拡張し血液がその内部に蓄積されていきます。 それが頑丈な白膜という組織の内側で、溜まった血液によって膨らんでいき、白膜内部の内圧の高まりによって海綿体の出口が塞がれ、 血液が海綿体内にストックされた状態が維持されるようになります。 その結果、勃起という生理現象が成立しているので、実はこの 『海綿体』 こそは、勃起の主役とも言える組織になります。
こちらの文献では、ラットを使用した動物実験によって、このアルコール依存症がどのように慢性的なED:勃起不全症の発症に関わっているかを調べた研究に関して記載がされております。 この研究ではまず、24匹のラットをアルコール投与群と非投与群 (コントロール群) とに分けて、 アルコール投与群には、7週間にわたり20%アルコール溶液のみを投与し、 人工的に慢性アルコール依存症モデルのラットを作成しております。
この研究の結果として、慢性的アルコール摂取群においては、海綿体の平滑筋面積の減少、すなわち本質的な海綿体の萎縮が確認されました。 これは上記のように 『勃起の主役』 とも言える海綿体での萎縮の発生なので、構造的なED:勃起不全症の発生を意味しております。 また慢性的アルコール摂取群の海綿体においては、内皮細胞の核膜に深い切断、飲作用小胞の減少、および海綿体内皮細胞の細胞質の空胞化など、 組織・細胞上の変化が確認されました。
そして慢性的なアルコール摂取群の海綿体においては 『カスパーゼ3』 と言う、アポトーシス (細胞のプログラム死) を誘導する中心的な酵素の発現が増加しており、 この事は、海綿体の平滑筋面積の減少が、慢性的なアルコール投与の影響によって発生した 『アポトーシス』 によって引き起こされている可能性を示唆しております。 ちなみにこの細胞死のマーカーである 『カスパーゼ3』 はアルツハイマー病における神経細胞死などとも関連している酵素になります。 この海綿体におけるアポトーシスの発生は、他の研究においても、アルコール依存症、また糖尿病などの慢性疾患において見られると報告がされております。
―Q1.「アルコール依存症だとED:勃起不全症になりやすいの?」
A. はい。アルコール依存症の患者さんの約7割にEDが診断されたという報告が有ります。
この報告では203人のアルコール依存症患者を調べた所、その 『68.5%』 にEDがあり、
これには年齢や糖尿病・高血圧、飲酒量や飲酒期間の長さなどが要素として関連していたとの事でした。
―Q2.「お酒をやめればEDは治りますか?」
A.多くの方で改善が期待できます。
3か月の断酒を続けたアルコール依存症患者104人の報告では、その88.5%にEDの改善を認められたとの事でした。
断酒によってEDの改善が見込まれやすいアルコール依存症のタイプとしては 『アルコール性肝疾患がない』 『年齢が若い』 『飲酒期間が短い』 『1日あたりの標準飲酒量が少ない』
と言った傾向があると合わせて報告がされておりました。
―Q3.「どれくらい飲むと 『EDリスクが高い飲酒』 になりますか?」
A. 正確な“線引き”は研究によっても異なってきますが、基本的には飲酒期間が長いほど、また1日あたりの標準飲酒量が多いほど、EDのリスクは高まります。
ある研究に関しての文献ではアルコール依存症の方が断酒して3か月後には88.5%の方にEDの改善が確認されたと記載がされておりますが、
この改善されやすい方の特徴としては 『アルコール性肝疾患がない』 『年齢が若い』 『飲酒期間が短い』 『1日あたりの標準飲酒量が少ない』 などが挙げられています。
―Q4.「アルコール依存症によるEDは、心の問題ですか? 体の問題ですか?」
A.アルコール依存症が内包される疾患概念である 『アルコール使用障害』 は、アメリカ精神医学会が発行する精神疾患の診断・統計のマニュアルである『DSM5』 にも記載がされている、
精神の、つまり 『心の問題』 では有りますが、
その慢性的な悪影響は 『体の問題』 も同時に引き起こします。
ラットの慢性アルコールモデルの報告においては、アポトーシス (細胞死) によると思われる陰茎海綿体の平滑筋の減少が確認され、
アルコール依存症が構造的なED:勃起不全症を引き起こす事が示唆されております。
1.Erectile Dysfunction in Alcohol Use Disorder and the change in erectile function after one month of abstinence.
Journal:Journal of addictive diseases. 2024 Apr-Jun;42(2);112-121. doi: 10.1080/10550887.2022.2157199.
Author:Aravind Karunakaran, Anil Prabhakaran, Vidhukumar Karunakaran, Jaimon Plathottathil Michael
※原著はこちら
2.The Impact of Abstinence From Alcohol on Erectile Dysfunction: A Prospective Follow up in Patients With Alcohol Use Disorder.
Journal:The journal of sexual medicine. 2022 Apr;19(4);581-589. doi: 10.1016/j.jsxm.2022.01.517.
Author:Aravind Karunakaran, Jaimon Plathottathil Michael
※原著はこちら
3.Morphological and molecular analysis of apoptosis in the corpus cavernosum of rats submitted to a chronic alcoholism model.
Journal:Acta cirurgica brasileira. 2020;35(3);e202000305. pii: S0102-86502020000300205.
Author:Rogério José de Azevedo Meirelles, Fermino Sanches Lizarte Neto, Mucio Luiz de Assis Cirino, Paulo Cezar Novais, Isabella Stracieri Gula, Jairo Pinheiro da Silva, Maria de Fátima Galli Sorita Tazzima, Valéria Paula Sassoli Fazan, Marina Toledo Durand, Daniela Pretti da Cunha Tirapelli, Camila Albuquerque Melo de Carvalho, Bruno César Schimming, Carlos Augusto Fernandes Molina, Silvio Tucci Junior, Luis Fernando Tirapelli
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-12-15)
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