バイアグラ (シルデナフィル) は、ED (勃起不全) の治療薬として世界的に有名な薬剤です。 本剤は、局所的に血管を広げて血流を良くする事で勃起を助ける仕組みを持っています。
この薬は本来は心臓病の治療薬として研究されていた歴史もあり、その作用の一部がED治療に応用されています。 現在では 「性生活の質を改善する薬」 として世界中で多くの人に使用されていますが、 同時に気をつけるべき点もいくつかございます。 その一つが 「お酒との飲み合わせ」 になります。
実際、バイアグラ (シルデナフィル) とお酒 (アルコール) との併用を悩ましく思われている方は少なくは無いと思われ、 それが 「バイアグラ (シルデナフィル) とお酒もしくはアルコール」 という検索頻度の多さに繋がっているものかと存じます。
こちらのページではライフクリニック新宿からシルデナフィル(バイアグラ)とお酒の関係に関する研究文献のご紹介を、
当院所属の日本性機能学会専門医よりお届けさせて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
最初の文献のご紹介は、バイアグラ (シルデナフィル) と多量のお酒を同時に摂取した事で重篤な脳血管障害を発症したという症例報告についてです。 この症例では、重大な医療歴および外科的手術歴のない41歳のインド人男性が、夜にシルデナフィルと多量のお酒を同時に摂取し、 翌朝、不快感を覚え、病院に搬送されましたが、病院到着時には既に死亡が確認されたとの事でした。 本症例の剖検所見においては、約300gの凝血を伴う脳浮腫があり、血腫は脳の右基底核から橋領域に大きく広がっていたとの事でした。 この文献では本症例をそれ以前のシルデナフィルとアルコールとの併用による脳血管発作など、 類似した致死的合併症に関する文献と照らし合わせてその考察を重ねております。
こうした症例はきわめてまれでは有りますが、とても重要な示唆を与えています。
シルデナフィルは血管を拡張し血圧を下げる作用を持ち、お酒すなわちアルコールも同じような血管拡張作用を有しております。
そのため、両者を同時に摂取すると血圧が急激に下がり、脳や心臓の血流が不安定になってしまうというリスクがあるのです。
このような血行動態の急激な変化は、特に高齢者や基礎疾患 (心臓病や脳血管障害の既往) がある人にとっては重篤な血管障害の危険性を増加させてしまいます。
つまり 「自分は健康だから大丈夫」 と思っていても、体調や飲酒量によってはリスクが急激に高まる場合がある、といった事がこの報告の重要なポイントと言えるでしょう。
特にここ最近のインドの若年層においては、シルデナフィルの無監視および処方箋なしでの使用が激増しているという経緯もあるので、 本症例においても多量のアルコールとシルデナフィルとの併用に関しての注意勧告がなされていなかった可能性も検討を要する所かと思われます。
続いてのバイアグラ (シルデナフィル) とお酒 (アルコール) に関しての文献のご紹介は、 マウスを使った基礎研究に関してのものになります。
通常、シルデナフィルは主要な血管拡張物質である 『一酸化窒素』 を補助する事でその勃起改善効果を示しますが、 この文献では、人間と同じ哺乳類のマウスに慢性かつ間欠的にアルコールを負荷すると、 電気・薬物によるこの 『一酸化窒素』 の放出刺激が有意な低下を示し、 またその結果、陰茎海綿体の弛緩反応が有意に低下する、 すなわちED/勃起不全の状態になってしまうと報告しております。
また、この状態に対しては、勃起改善薬であるシルデナフィル (バイアグラ) を投与しても、 陰茎海綿体の弛緩反応は有意に低下したまま、 すなわちシルデナフィルによる勃起改善反応は見られなかったとも報告しております。
このマウスの陰茎海綿体の精査上では、活性酸素の増加が見られたとの事で、 この研究では、慢性かつ間欠的なアルコール投与により、 可溶性グアニリルシクラーゼ (sGC) の酸化還元状態に変化が生じ、 その結果、シルデナフィルによって改善が示されない重症EDが発症したものと推察しております。
この研究結果は 「お酒をよく飲む人はバイアグラの効き目が弱まる」 あるいは 「思わぬ作用が出うる」 という併用によるリスクを示しており、 普段から継続的な飲酒習慣がある人にとっては特に重要な報告と言えるものかと存じます。
また本研究では、たとえ少量の飲酒であったとしても、長期的には薬の効き方に影響を与えてしまう可能性がある事も提示しており、 これはシルデナフィルを継続的に使用している人にとっては無視できない知見と言えるでしょう。
3つ目にご紹介するバイアグラ (シルデナフィル) とお酒 (アルコール) に関しての文献もマウスを使った基礎研究についての報告になります。
元々、慢性かつ多量なお酒の摂取は、心臓の代謝および機能障害を引き起こしてしまう危険性があり、 これは非虚血性心筋症発症の危険因子ともされています。
この実験では、マウスに通常流動食を与えた群 (対照群) 、またアルコール食 (1日摂取カロリー35%のアルコールを加えた) を与えた群、 また同アルコール食に加えシルデナフィル (1mg/kg/日、経口) を与えた群、 この三群にそれぞれ14週間、これらを無制限に摂取させたとの事でした。
その結果としてアルコール食のみの群は、細胞生存に悪影響を及ぼすストレスシグナルの分子センサーである、 マイクロRNA214 (miR-214) が心臓において、対照群に比較して2.6倍も増加していたと報告しております。 これはアルコールの慢性かつ多量な摂取が如何に心臓にストレスを与えているかを示したものです。
しかし、同じようにアルコール食を与えているのに、加えてシルデナフィル (1mg/kg/日、経口) を与えた群においては、 このアルコール誘発性のマイクロRNA214の増加が明らかな鈍化を示したと報告されており、 これについては、シルデナフィル (バイアグラ) が慢性的なアルコール乱用による心臓アポトーシスに対して、 新たな防御戦略となる可能性を示唆していると本研究では報告しております。
この結果は一見すると 「シルデナフィルはお酒による悪影響を軽減してくれるのでは?」 と思わせるものかも知れません。 しかし、これはあくまで動物実験の範囲であり、人間にそのまま当てはめることはできませんし、 むしろ、この知見は 「アルコールとシルデナフィルが相互に作用しうる」 という証左の一つでもあり、 アルコールとシルデナフィルの併用には変わらず慎重な対応が必要である事も示しています。
―Q1.「 バイアグラと少しのお酒なら併用は大丈夫?」
A. 軽い飲酒であれば大きな問題は起こりにくいとはされていますが、薬効は弱くなってしまう事がほとんどです。また立ちくらみも発生しやすくなります。
―Q2.「なぜ大量のアルコールと併用すると危険なの?」
A. 両者とも血管を広げる作用を持つため、同時に摂取すると血圧が急激に低下してしまう怖れが有ります。その結果、脳や心臓の血流が悪化し、
めまいや失神の症状だけでなく、脳卒中や心筋梗塞の発症につながってしまうようなリスクも有ります。
―Q3.「バイアグラを飲む日はお酒をやめた方がいい?」
A. 安全とバイアグラの安定した薬効のためには、バイアグラを飲む日はお酒は控えた方が望ましいです。
―Q4.「普段からお酒を飲む人は効き目が変わる?」
A. はい、研究上では長期・慢性の飲酒はシルデナフィルの作用に悪影響を及ぼす可能性があると示唆されています。
効き目が弱まる、あるいは副作用が出やすくなる事も考えられます。
バイアグラ (シルデナフィル) はED改善に効果的な薬剤ですが、お酒との併用には十分な注意が必要です。 少量であれば薬効は弱るにしても健康リスクは少ないとされるその一方で、 大量飲酒の場合は命に関わるような危険性もあります。
また、普段からお酒を飲む習慣がある人においては、薬の効き方が変わってしまう可能性もあるため、そこにも注意が必要になります。 バイアグラ (シルデナフィル) を安全に使うためには、普段からの飲酒を控え、医師の指導を受けながら運用する事が最善と言えます。
1.Sherpa, D., Sherpa, K., & Levy, J. (2009). Rare fatal effect of combined use of sildenafil and alcohol leading to cerebrovascular accident. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, 18(3), 246–248. https://doi.org/10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2008.10.008
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2.Beretta, M., Gruber, K., Kollau, A., Russwurm, M., Koesling, D., Goessler, W., & Mayer, B. (2008). Oxidized soluble guanylyl cyclase: A redox switch in nitric oxide signaling. Molecular Pharmacology, 73(3), 885–894. https://doi.org/10.1124/mol.107.042317
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3.Varma, A., Das, A., Hoke, N. N., Durrant, D. E., Salloum, F. N., & Kukreja, R. C. (2012). Sildenafil attenuates myocardial dysfunction in chronic alcohol ingestion: Role of NO-cGMP signaling. PLoS ONE, 7(9), e37377. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0037377
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-10-08)
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