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『バイアグラ (シルデナフィル) が認知症であるアルツハイマー病に与える効果に関しての文献を新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医からご紹介』

【バイアグラとアルツハイマー病に関して。はじめに】


バイアグラ (シルデナフィル) が認知症であるアルツハイマー病に与える効果、はじめに

バイアグラ (一般名:シルデナフィル) は、もともと勃起不全の治療薬として開発されました。 しかし近年、この薬が脳血流の改善や神経への保護作用を持つという可能性に関する研究が注目され、 認知症の主体であるアルツハイマー病への予防的効果が検討されております。


アルツハイマー病は全世界で5000万人以上が罹患しており、毎年1000万人が新たに診断されていて、 認知症の最も一般的な原因とも言えます。認知症患者の約60%から80%をアルツハイマー病が占めているとされていて、 本疾患は記憶障害、認知機能障害、視空間認知障害を主症状とする進行性の神経変性疾患になります。


バイアグラ (シルデナフィル) は元々、学習障害マウスの学習能力や記憶能力を改善するという研究報告があり、 ユーザーによる 「バイアグラ / シルデナフィル、アルツハイマー病 / 認知症の改善」 と言ったインターネット上の検索の背景には、 こうした、今までの研究の成果が関わっている事もあるかと存じます。


そこで、こちらのページでは3つの研究文献をもとに、ライフクリニック新宿より、シルデナフィル:バイアグラの、 認知症である 『アルツハイマー病』 への効果について、 当院所属の日本性機能学会専門医から、最新の知見をわかりやすくご紹介させて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。


1.【文献①:ホスホジエステラーゼ5阻害薬とアルツハイマー病リスクのメタ解析】

ホスホジエステラーゼ5阻害薬とアルツハイマー病リスクのメタ解析

この文献は、6つの研究を統合したメタ解析に関してのものであり、総計833万人を超えるデータを解析しております。 研究者たちはバイアグラ、シアリス、レビトラなどのホスホジエステラーゼ5阻害薬の使用とアルツハイマー病の発症リスクとの関連を評価する事を目的にこの研究を進めました。 具体的にはシルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルによる治療を受けた被験者群と、他の治療を受けた、または治療を受けていない対照群とを比較検討した内容となっております。


その結果として、
ホスホジエステラーゼ5阻害薬の使用者群と対照群とを比較したアルツハイマー病リスクの累積ハザード比は0.53 (95% CI: 0.32–0.86, p = 0.008) と言う結果となり、 つまりホスホジエステラーゼ5阻害薬の使用者群では、アルツハイマー病の可能性が著しく低下していた事が示されました。


またバイアグラ:シルデナフィルの使用者群ではアルツハイマー病リスクのハザード比が0.46 (95% CI: 0.31–0.70, p < 0.001) と言う結果となり、 一方シアリス:タダラフィル、レビトラ:バルデナフィルにおいては、有意な結果は得られ無かったとの事で、 つまりバイアグラ:シルデナフィルの使用者群だけにアルツハイマー病の可能性が著しく低下した結果が示されたという事でした。


ホスホジエステラーゼ5阻害薬と認知機能への望ましい効果との間には 『用量反応関係』 がある事が動物を使用した他の実験でも示されており、 また、バイアグラ:シルデナフィルは、アルツハイマー病の発症に重要な役割を果たす 『アミロイドβ-42』 と 『過リン酸化タウ』 の蓄積を抑制する可能性がある事も、 他の実験において示されています。


この研究における全体的な調査結果は、各薬剤の使用された用量、もしくは使用された期間によって影響を受けてしまう可能性があり、 また対象とした研究間の異質性を勘案すると、 さらなる追加調査が必要であると、本文献上においても、その内容の限界について言及がされております。 つまり本研究は因果関係を証明しきれるものではないが、 今後行われるべきランダム化臨床試験を行うための動機となりうる有用な内容との事でした。


2.【文献②:シルデナフィルに焦点を当てたシステマティックレビュー】

シルデナフィルに焦点を当てたシステマティックレビュー

この文献は、ホスホジエステラーゼ5阻害薬の中でもバイアグラ:シルデナフィル単剤に着目し、 バイアグラ:シルデナフィルの使用とアルツハイマー病の発症リスクとの間の関連性を明らかにするため、 合計885,380人の患者を対象とした5件の研究に対して、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した内容となっております。


この結果として、シルデナフィルの使用群では、その非使用群と比較した場合、アルツハイマー病の発症リスクが約2分の1に低減する事が示されました (HR: 0.47、95% CI: 0.27-0.82、p<0.001) これは上記 【文献①】 の結果にも近似した内容となります。


この研究では、シルデナフィルがマウスモデルの海馬にてアルツハイマー病の臨床的特徴であるアミロイドβペプチドのレベルを低下させるだけでなく、 シルデナフィルが一酸化窒素合成酵素/一酸化窒素/環状グアノシン一リン酸 (NOS/NO/cGMP) シグナルの伝達経路に関与する事で、 アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性に関しても考察を重ねており、 これはシルデナフィルがcGMPレベルを上昇させる事で間接的にミトコンドリア新生および抗酸化酵素活性を誘導する事、 またシルデナフィルがcGMP経路を介して血管拡張を促進する事で海馬の低灌流を軽減する事、 これらがその効果の本態の一つである可能性に関しても言及をしております。


本研究もまた本研究固有の限界について説明しており、 シルデナフィルの使用と他の認知症サブタイプとの関連性が検証し切れなかった事、 また、実施された研究はすべて後ろ向きデータに基づいている事、 また選択バイアスを排除しきれず、追跡調査から脱落した患者もいた可能性がある事、 このそれぞれについても文献内で触れております。


3.【文献③:細胞実験によるバイアグラ:シルデナフィルの神経保護作用】

細胞実験によるバイアグラ:シルデナフィルの神経保護作用

この文献では4つのアルツハイマー病患者由来のiPs細胞から分化させた 『前脳の神経細胞』 において行われた細胞実験について報告しております。


この分化された神経細胞では、対照群となる神経細胞と比較してアルツハイマー病の発症に重要な役割を果たす 『過リン酸化タウ』 が増加していることがまず確認されました。


この生成された神経細胞に対してバイアグラ:シルデナフィルを5日間投薬し、その細胞のRNAを解析した所、 結果として、シルデナフィルが神経細胞における過リン酸化タウの蓄積を有意に減少させている事がわかりました。


本文献のまとめしては シルデナフィルは、アルツハイマー病の神経細胞においてタウの総量、およびそのリン酸化を減少させる事で、 神経細胞のアルツハイマー病からの保護効果を示す可能性があると結論づけており、 つまりこれは 「バイアグラが神経細胞内の異常タンパク蓄積を抑制して、神経の変性を防ぐ」 という可能性について説明をしています。


しかしながら、アルツハイマー病におけるシルデナフィルとの因果的治療効果をきちんと検証するには、 ランダム化臨床試験などの実施が不可欠であるともこの報告では言及をしております。


4.【バイアグラとアルツハイマー病に関しての総合まとめ】

  • ―複数の研究におけるメタ解析において、バイアグラ:シルデナフィルの使用者はアルツハイマー病の発症リスクを約1/2に低下させている事が示されました。 ただし、アルツハイマー病におけるシルデナフィルの治療効果、あるいは因果関係をキチンと検証するには、ランダム化臨床試験などによる前向きデータが必要との事です。

  • ―バイアグラ:シルデナフィルがアルツハイマー病の発症リスクを軽減させるというロジックには、アミロイドβ-42と過リン酸化タウの蓄積を本剤が抑制する作用などが検討されており、 特にアルツハイマー病の神経細胞を使用した細胞実験においてはバイアグラ:シルデナフィルによる過リン酸化タウの有意な蓄積予防効果が確認されています。

  • ―バイアグラ:シルデナフィルによるアルツハイマー病の予防効果は、あくまで実験段階・研究段階のものであり、現状で本剤がアルツハイマー病の予防的治療に推奨されている訳では有りません。

  • ―バイアグラ:シルデナフィルは罹病背景・また元々の服薬内容によっては服用ができない事、また血管拡張などに伴う副作用が出現してしまう可能性がある事から、 内服の可否を医師が決定する 『処方箋医薬品』 に本剤は指定されています。 医師の判断を仰がずに、アルツハイマー病の予防を目的としてバイアグラ:シルデナフィルを使用する事などは決してされませんようお願い申し上げます。

5.【よくある質問(Q&A):シルデナフィル/バイアグラ)と認知症/アルツハイマー病に関して】


―Q1.「バイアグラを飲めばアルツハイマー病を予防できますか?」
A. 細胞実験、また後ろ向きデータによるメタ解析では、バイアグラ:シルデナフィルによるアルツハイマー病の予防効果が示されていますが、 ランダム化臨床試験などの 『因果関係』 を検証する実験がまだ行われていない為、 未だ 「予防薬」 として承認がおりている訳では全くありません。 アルツハイマー病に対しては、現状で専門医が推奨する標準的予防法・治療法を行われますようお願い申し上げます。


―Q2.「他のED薬 (シアリスやレビトラ) でも同じ効果がありますか?」
A.メタ解析上では、バイアグラ:シルデナフィルで最も明確なアルツハイマー病リスクの低下が確認されており、 一方、他のレビトラ:バルデナフィル、シアリス:タダラフィルでは解析においては一貫性が弱い事が確認されております。


―Q3.「アルツハイマーの治療薬としてバイアグラは期待ができますか?」
A. 神経細胞の実験ではバイアグラ:シルデナフィルでアルツハイマー病の原因物質である過リン酸化タウの蓄積に対する抑制作用が示されましたので、期待はできますが、 臨床治療としての効果は今後のランダム化比較試験などでの検証が必須と言えます。


―Q4. 「バイアグラは自分の判断で飲んでもいい?」
A. バイアグラ:シルデナフィルなどのホスホジエステラーゼ5阻害薬の自己判断での服薬は大変危険です。 これらホスホジエステラーゼ5阻害薬には、疾患の使用禁忌、また薬の併用禁忌、また副作用の出現などが有りますので、 本剤使用前には、必ず日本性機能学会専門医など専門家のチェックアップを受けられますようお願い申し上げます。


【引用文献】


1.Abouelmagd ME, Abdelmeseh M, Elrosasy A, et al. Phosphodiesterase-5 inhibitors use and the risk of Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. Neurological Sciences. 2024;45:5261–5270. doi:10.1007/s10072-024-07583-9.
※原著はこちら


2.SChua, W. Y., Lim, L. K. E., Wang, J. J. D., Mai, A. S., Chan, L.-L., & Tan, E.-K. (2024). Sildenafil and risk of Alzheimer’s disease: a systematic review and meta-analysis. Aging..
※原著はこちら


3.Gohel D, Zhang P, Gupta AK, et al. Sildenafil as a Candidate Drug for Alzheimer’s Disease: Real-World Patient Data Observation and Mechanistic Observations from Patient-Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Neurons. Journal of Alzheimer’s Disease. 2024;98(2):643–657. doi:10.3233/JAD-231391.
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-10-20)

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