―バイアグラ (シルデナフィル) は「炎症」を抑える? 最新研究3本が示す意外な抗炎症作用とは?―
バイアグラ (一般名:シルデナフィル) と聞くと、多くの人は 「ED (勃起不全) 治療薬」 を思い浮かべるかと存じます。 しかし近年、医学研究の世界では、シルデナフィルの持つ抗炎症作用 (炎症を抑える効果) の可能性が注目され始めております。
実際に、2025年には複数の国際論文が 「バイアグラは慢性炎症を軽減し、血管や組織を保護する作用も持つ」 という内容に関して報告をしており、 こうした報告の存在が 『バイアグラ (シルデナフィル) 炎症の抑制』 などのインターネット検索を増加させている動機になっているかと存じます。
こちらのページにおいては、これら国祭的な文献の中から3つの代表的なものをご紹介しつつ、
本ページのテーマ 「炎症とバイアグラ (シルデナフィル) 」に関して新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医から、
わかりやすく解説をさせて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
慢性炎症は、アテローム性動脈硬化症、糖尿病、慢性腎臓病、神経変性疾患など、多くの病態に共通した臨床特徴の一つです。 最近の研究においては、シルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害剤 (ホスホジエステラーゼ5阻害薬) が炎症性サイトカインの発現に関与する細胞内シグナル伝達経路を調節することで 抗炎症作用を発揮している可能性がある事が示唆され始めています。
こちらでご紹介する文献における研究では、世界20件の臨床試験・合計1549人のデータを解析しており、 短期 (1週間以内) 、中期 (4~6週間) 、または長期 (12週間以上) の追跡調査にて、その評価がなされています。 本研究はシルデナフィル (バイアグラ) など、いわゆる 「PDE5阻害薬」 がヒトの炎症誘発マーカー (TNF-α、IL-6、IL-8、CRP、VCAM-1、ICAM-1、Pセレクチン) にどのような影響を及ぼすかを大規模に検証したものになります。
こちらの結果として、短期投与ではPDE5阻害薬がTNF-α、IL-6、またはCRPなどに有意な影響を及ぼしていない事が示されましたが、 その一方で、長期投与においては、シルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害薬の投薬が、 炎症誘発マーカーであるIL-6 (SMD = -0.64、p = 0.002) およびP-セレクチン (SMD = -0.57、p = 0.02) の減少、 ならびにcGMP (SMD = 0.87、p = 0.0003) の増加と関連していたとの事で、 このように長期間のPDE5阻害薬投与の方では慢性炎症が軽減されている事がわかりました。
このシステマティックレビューとメタアナリシスからは、シルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害剤がヒトにおいて、単なる血流改善作用だけでなく、 特にIL-6およびIL-8のダウンレギュレーションを介して選択的な抗炎症作用を発揮する事を示唆するエビデンスを提供しております。
またいくつかの研究においてはシルデナフィル (バイアグラ) などのPDE5阻害剤によって、酸化ストレス、内皮機能、好中球活性などのマーカーの改善も示されており、 これは本剤におけるサイトカイン調節を超えた広範な免疫調節効果を裏付けるものになります。
これらの結果を総合すると、PDE5阻害剤は血管拡張作用以外の 『他の治療効果』 に対しても期待をする事ができ、 慢性の低度炎症を特徴とする疾患であるアテローム性動脈硬化症、糖尿病、慢性腎臓病、神経変性疾患などに対する補助的治療薬として位置付ける事ができるという可能性が見いだされます。
傷口に細菌が侵入してしまうと過剰な炎症や酸化ストレスが発生する事によって創傷の治癒が遅れてしまう事がまま有り、 そして時にこの状態から敗血症などの激症に状況が進展してしまうような危険性も有ります。
こちらでご紹介させて頂く文献では、 卵白とキトサンを組み合わせた天然素材ハイドロゲルにバイアグラの主成分であるシルデナフィルを配合し、 マウスの感染している傷口に対して、これがどのような効果を示すのかを検証した動物実験について記載がされております。
その結果として、炎症性サイトカインであるTNF-αとIL-1βのレベルは、 対照群と比較してシルデナフィルを含む天然ハイドロゲルを使用した群において、その有意な低下が示されており、 これにより創傷における過剰な炎症反応がシルデナフィルを含む天然ハイドロゲルによって軽減され、治癒の過程が促進されている事がわかりました。
またCD31発現の増加は 『新しい血管の形成と内皮細胞の活動を示し』、α-SMAはモニタリングすることで 『血管壁の構造と機能状態を理解する事に役立ち』、 またVEGFレベルの上昇は 『血管新生の活性と関連因子の調節』 を示唆しているので、これら3つの指標を総合的に検討する事で、血管新生の状態をしっかりと評価する事ができます。 本研究では、シルデナフィルを含む天然ハイドロゲルの投与群において、これらCD31、α-SMA、VEGFは最も陽性発現率が高かったと報告がされており、 シルデナフィルを含む天然ハイドロゲルの投与群では、創部における血管新生によっても、治癒の過程が促進されている事がわかりました。
この結果は将来的には、感染を伴う創部の代表である 『糖尿病による皮膚潰瘍』や 『高齢者の褥瘡』 などへの治療に、 バイアグラ (シルデナフィル) などPDE5阻害薬が転用できる可能性を示唆しております。
新生児において最も重要な消化管合併症は 『壊死性腸炎』 であり、 その炎症による肺への悪影響は新生児に深刻な状況を引き起こしてしまう事が有ります。
こちらの文献には、壊死性腸炎の発症したマウスの新生児に対してバイアグラの主成分であるシルデナフィルが、 合併する肺の組織の炎症に対してどのように作用するかを検証した実験について記載がされております。
その結果として、 壊死性腸炎群では対照群に比較して炎症性サイトカインのTNF-α、IL-6のmRNA発現レベルが増加しており、また肺の組織には肺胞の浮腫と出血が見られ、 壊死性腸炎に合併した肺の組織の炎症による障害の発生が確認されていました。 その一方で、シルデナフィルを投与した群においては、TNF-α、IL-6のmRNA発現レベルが有意な減少を示しており (* p < 0.05、** p ≤ 0.0001) 、 また肺の組織においては肺胞の浮腫と出血の減少が確認されました。
つまりこの結果はシルデナフィル (バイアグラ) の投与が、mRNA発現レベルと組織レベルの両方において、 壊死性腸炎から誘発された肺組織の炎症を軽減させてくれる効果がある事を示したものになっております。
つまりバイアグラは 「血流改善薬」 から 「炎症制御薬」 へ、その機能を拡大できる可能性があるという事になります。
―Q1.「バイアグラ (シルデナフィル) を飲むと炎症が治るの?」
A. 医薬品として「炎症治療薬」 に承認されている訳では有りませんが、
研究では炎症を抑え、炎症による組織障害を軽減させてくれる効果が確認されています。
しかし、バイアグラは厳密な適応のある 『処方箋医薬品』 にて、医師の管理を伴わない自己判断での服薬はむしろ危険を招きます。
―Q2.「バイアグラ (シルデナフィル) が炎症を抑える仕組みは?」
A.研究ではシルデナフィルは炎症性サイトカインのTNF-α、IL-6におけるmRNAの発現レベルを、
有意に減少させていると報告がされています。
―Q3.「傷に塗るバイアグラがあるの?」
A. 現在はあくまでも研究の段階ですが、シルデナフィル入りの天然素材で作られたハイドロゲルが動物の感染した創部を改善させるという報告があります。
今後、研究が進んでいけば、感染した創部の代表である高齢者の褥瘡や糖尿病による皮膚潰瘍などへの応用が期待されます。
1.Cianciarulo C, Nguyen TH, Zacharias A, Standen N, Tucci J, Irving H. Analysis of Phosphodiesterase-5 (PDE5) Inhibitors in Modulating Inflammatory Markers in Humans: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Mol Sci. 2025;26(15):7155. https://doi.org/10.3390/ijms26157155
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2.Lai, Y., Zhang, W., Chen, Y., Weng, J., Zeng, Y., Wang, S., Niu, X., Yi, M., Li, H., Deng, X., Zhang, X., Jia, D., Jin, W., & Yang, F.Advanced healing potential of simple natural hydrogel loaded with sildenafil in combating infectious wounds.International Journal of Pharmaceutics: X. 2025; 9:100328.
※原著はこちら
3.Mehmet Akif Ovali, Özlem Özutop, & İhsan Karaboga.A Phosphodiesterase Type-5 (PDE-5) Inhibitor, Sildenafil, Ameliorates the NEC Induced Inflammation.The Protein Journal. 2025; 44:317–324.
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-10-27)
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