日常生活で簡単に手に入り、世界で最も広く消費されている飲み物の1つであるコーヒーは、カフェイン、抗酸化物質、抗炎症化合物が豊富に含まれていて、 これらの成分が慢性疾患に対して有益な役割を果たす可能性がある事が以前より考えられています。 中でもコーヒーを飲むとED:勃起不全が改善されるという仮説は、前提としてEDの発生が心血管疾患の前兆となる事が多く、 また抗酸化物質を摂取すると心血管疾患のリスクが軽減されるという事実から想起されております。
おそらくインターネット検索において 「ED 勃起不全 コーヒー 改善」 と言った組合わせの検索頻度の上昇は、 こうした状況が背景にあってのものかと存じます。
コーヒーがED:勃起不全を改善させると想定される代表的なロジックとしては、 コーヒーに含まれるカフェイン自体が一つの非選択的ホスホジエステラーゼ阻害剤であり、細胞内環状グアノシン一リン酸のレベルを上昇させる事で、 カルシウムイオンの流れを減少させ、その結果、海綿体平滑筋が弛緩し陰茎血流が増加するという可能性がある事、 またコーヒーに内包されるその豊富な抗酸化物質により、さまざまな組織内の酸化ストレスと炎症が軽減され、その結果として血管の保護効果が示される可能性がある事、 これらが主体とされています。
実際にトルコで行われた集団ベースの研究でも、カフェイン摂取量とEDリスクとの間には負の相関が認められ、 一方、ラットを使用した動物実験では、カフェイン摂取が海綿体のcGMPの上昇を介して糖尿病ラットの勃起機能を改善させる可能性について報告がされています。
こちらのページでは 「果たしてコーヒー (カフェイン) はED:勃起不全を改善しうるのか?」 をメインテーマとして、
文献1.では米国における大規模疫学研究について、
文献2.では前向きコホートの研究について、
文献3.では因果関係の解析に強いメンデルランダム化研究について、
それぞれ異なる三種類の研究デザインに関して報告された内容を、時系列的に説明する事で、
現在のED:勃起不全症とコーヒー (カフェイン) との関係性が立体的に把握ができるよう、
新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医からくわしく解説させて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
アメリカの成人は、なんと85%以上がカフェインを常習的に摂取していると言われており、 そんなアメリカで行われた国民健康栄養調査(NHANES)に参加した男性3,724名(20歳以上)のデータを解析し、 コーヒーの摂取量とED:勃起不全の発症との関連性を調査した大規模疫学研究に関して記載されている文献について、こちらではご紹介をさせて頂いております。。
アメリカの国民健康栄養調査(NHANES)は、元々、米国疾病予防管理センター(CDC)の国立健康統計センター(NCHS)が米国の成人および小児の健康と栄養状態などを評価するために 実施している研究プログラムの総称になります。この調査データの中から、EDに関する有効なデータを持つ20歳以上の男性を抽出した所、総サンプルサイズは合計で3,724人であったとの事でした。
このサンプルを使用した症例対照研究の結果として、多変量ロジスティック回帰分析上では、総カフェイン摂取量とEDの発症率との間には負の相関が認められたとの事でした。 つまりカフェインを摂取する量が増える程に、EDの発症率が低下する傾向があったという事を示しております。
このED有病率の低下は、主にカフェイン摂取量が170~375mg/日の場合に観察がされました。このカフェイン量はコーヒーで換算すると2~3杯分に相当します。 さらに、総カフェイン摂取量は、肥満、高血圧をお持ちの方において、EDのオッズを低下させるとの事でした。 一方、糖尿病においては総カフェイン摂取量がEDのオッズを低下させる事は有りませんでした。 これは上述したラットを使用した動物実験におけるカフェイン摂取が糖尿病ラットの勃起機能を改善させるという報告とは合致しない内容となっております。
また、この研究は大規模ではあるものの、カテゴリーは症例対照研究なので、 この文献内で筆者ら自らが指摘しているように、ED:勃起不全とコーヒーとの関連性は、 前向き研究で重ねて検討をする必要が有ると言えます。 それを実行しているのがまさに次でご紹介する文献2.の内容になります。
上記文献1.において、ご紹介させて頂いた症例対象研究では、1日にコーヒー2~3杯分飲む人はEDの発症率が下がる傾向があると解説をさせて頂いておりますが、 この結果は 『前向きの研究』 では、どのように変わってくるのでしょうか?
こちらの文献で使用されているデータベースの 『アメリカの医療専門家追跡調査 (Health Professionals Follow-up Study:HPFS)』 とは、歯科医、薬剤師、検眼医、整骨医、足病医、獣医師、 を含む51,529人の米国中年男性医療従事者を対象とした前向きコホート研究になり、 こちらでは、このHPFSのデータをベースに、カフェイン入り飲料およびカフェインレス飲料の摂取とED (勃起不全症) の発症リスクとの関連性を、 前向きに調査したという研究に関して記載がされております。
本研究では、このHPFSから、40~75歳の男性21,403人を抽出し、10年間追跡した解析サンプルにおいて、コーヒーの摂取とED発症率との関連性に関して調査をしております。 なお21,403人の参加者 (年齢の中央値62歳) を10年間追跡調査した結果として、参加者の34% 7,298人の男性がED (勃起不全症) を追跡中に発症しております。
コーヒーの摂取量は質問票を用いて、レギュラーコーヒー、カフェイン抜きコーヒー、および総コーヒー(レギュラーおよびカフェイン抜き)、これらの摂取量に応じて分類がされ、 またEDは質問票の平均値を用いて評価され、これらデータ全体を多変量補正Cox比例ハザードモデルを用いて、ED発症患者のハザード比を算出したとの事でした。
結果として コーヒーの総摂取量(ハザード比(HR)=1.00、95%信頼区間(CI):0.90~1.11)およびレギュラーコーヒーの摂取量(HR=1.00、95%CI:0.89~1.13)において、 EDを発症した患者に、有意差が見られるデータは全く認められなかったとの事でした。 ただ、カフェインレスコーヒーのデータに関してはEDリスクが37%増加し(HR=1.37、95%CI:1.08~1.73)その摂取量とED発症との間で統計的に有意な傾向が認められました(傾向のP値=0.02)。 またカフェインレスコーヒーの摂取量が最も多いグループと最も少ないグループ(1日4杯以上と0杯)とを比較したところ、 カフェインレスコーヒーの摂取量が最も多いグループにてEDのリスクが43%増加している事がわかりました(HR = 1.43、95% CI: 1.10、1.87)。
全体として、この前向きコホート研究において、長期のコーヒー摂取はEDリスクとの関連を示す事は全く有りませんでした。 これは心血管疾患の既往歴や生活習慣病の危険因子など潜在的な交絡因子を調整した後も、 コーヒーの総摂取量(傾向のP値=0.37)またはレギュラーコーヒーの摂取量(傾向のP値=0.90)とED:勃起不全症との間に関連性を認める事は一切なかったとの事でした。
カフェイン抜きコーヒーを多く飲む人は、BMI・血圧・コレステロール値が高く、アルコール消費量が多く、現在または過去に喫煙歴が有るという傾向が見られていたとの事でした。 前提としてカフェイン抜きコーヒーの摂取とED発症との間には、強い生物学的な妥当性が存在しない事、 またカフェインレスコーヒーとEDの正の相関は現喫煙者の層で最も強く認められたという結果から、 この相関は、残余交絡が存在している可能性が高いと文献中では推測されております。
まとめますと、文献1.の大規模な症例対照研究ではコーヒーの摂取量とED発症との間に関連性が示唆されましたが、 より因果関係を適切に判断できる 『前向き研究』 においてはそうした結果は確認されず、 むしろこちらではカフェインレスコーヒーとED発症との間に関連性が示唆されました しかし、おそらくこれはカフェインレスコーヒーを飲む人の背景にある要素が交絡要因となっている可能性が高いとの事で、 この関連性に関しては推測される生物学的妥当性は見当たらないとの事でした。
大規模な症例対照研究ではコーヒー摂取量とED発症の低下には関連性が見られるも、 前向き研究ではそうした結果は一切出なかった、こうした流れの中で次に登場するのが、 次の文献3.における 『メンデルランダム化法』 による研究です。 このメンデルランダム化法とは、曝露因子とアウトカムリスクの因果関係を探求する革新的な疫学アプローチとも言われております。
上記文献1.にて大規模な症例対照研究ではコーヒー摂取量とED発症の低下の間に相関があるという結果が出るも、 文献2.の前向きコホート研究ではそうした内容が否定されるという結果になりました。 それでは、曝露因子とアウトカムリスクの因果関係を探求する革新的な疫学アプローチである 『メンデルランダム化法』 での検討では、 これはどのような結果になるのでしょうか?
こちらでご紹介する文献では、ヨーロッパ系のコーヒー消費者91,462人を対象に、年齢、喫煙状況、性別、症例対照研究の状況、研究地域、家族構成、 および研究固有の人口サブストラクチャの主成分などを調整した上で、コーヒー消費量を評価している研究に関して記載がされております。 このメタアナリシスにおける平均コーヒー消費量は1日あたり1.7~5.8杯との事でした。
この研究ではメンデルランダム化法(メンデルランダム化研究、Mendelian Randomization; MR)を用いておりますが、このメンデルランダム化法とは何かと言いますと、 ランダム化比較試験と同様に、曝露とアウトカムの因果関係を調査する研究方法の一つで、 ゲノム情報(DNAの多型など)を「操作変数」として用いて、 曝露(この場合はコーヒーの摂取量など )と疾患 (この場合はED:勃起不全) との因果関係を推測するための統計的手法になります。 この方法は従来の観察研究で問題となる交絡 (この場合は元々EDのリスクファクターである糖尿病や高血圧など) の影響を排除できるのが一つの大きな特徴となります。
この研究の結果として、EDのデータを結果変数として解析した場合、ゲノムワイドメタアナリシスからのコーヒー摂取素因(IVW OR = 1.021; 95%CI:0.843〜1.238; p =0.829)、 ゲノムワイド関連研究からのコーヒー摂取素因(IVW OR = 1.314; 95%CI:0.754〜2.289; p =0.335)、およびお茶からのカフェイン(IVW OR = 1.107; 95%CI:0.690〜1.776; p =0.673)は、 いずれもEDに因果的影響を与えないことが明確に示され、結論として遺伝子データを使用したこちらの研究においても、 コーヒー/カフェインの摂取とEDのリスクとの間に有意な関連性は見うけられなかったとの事でした。
こちら文献3.の研究では、文献1.の3,724人より多くのED患者のサンプル数を対象としており、 またメンデルランダム化法を用いることで文献2.のテーマでもあった残余交絡による影響も最小限に抑え、 また観察研究デザインに固有の逆因果関係も回避されております。 最後にメンデルランダム化法に基づくメタアナリシスも実施されていて、 これは単一の研究よりも堅牢でより信頼性の高い結果をもたらしているとの事でした。
―Q1.「コーヒーを飲むとEDが改善しますか?」
A.後向きの疫学研究ではその可能性が示唆されましたが、その後の前向きコホート研究、ならびにメンデルランダム化研究では、
否定的な結果となりました。ただコーヒーに含まれている抗酸化物質の摂取は心血管疾患の予防にはなる可能性があります。
―Q2.「コーヒーはどのくらいの量が最も良いですか?」
A.後向きの疫学研究では、2〜3杯/日(カフェイン 170〜375 mg)のコーヒーの摂取とED (勃起不全) の有病率の低下が
、最も相関関係が強かったと報告がされております。
―Q3.「デカフェ(カフェインレス)でも効果がありますか?」
A.カフェインレスコーヒーは米国における前向きコホート研究では、むしろEDのリスクを増加させるという結果が出ています。
ただ米国においてカフェインレスコーヒーを多く飲む人は、BMI・血圧・コレステロール値が高く、アルコールの消費量が多く、
現在または過去に喫煙歴がある傾向が見られやすい事もあって、この結果は残余交絡の影響で発生しているという可能性が有ります。
また、カフェイン入りであってもカフェイン抜きであっても、昨今のカフェで見られるようなシロップ・クリームなどが過剰に入った高カロリーなアレンジメントコーヒーは、
糖質や脂質の過剰摂取となるので、慢性的な摂取はED:勃起不全のリスクファクターである糖尿病や脂質異常症を引き起こしたり、
これらを悪化させたりする可能性が有ります。
―Q4.「糖尿病がある場合、コーヒーによってEDは改善しますか?」
A.ラットを使用した動物実験では、カフェイン摂取が海綿体cGMPの上昇を通じて糖尿病ラットの勃起機能を改善させるという結果が報告されておりますが、
人間においては後向きの疫学研究であっても、総カフェイン摂取量は糖尿病において、
EDのオッズ比の低下を示さなかったと報告がされております。
―Q5.「コーヒーの飲み過ぎはEDに悪いですか?」
A.コーヒーの飲み過ぎでEDが悪化するという指向性の高いエビデンスは見うけられませんが、
カフェインの短時間での過剰摂取(0.5~1g)は、運動領や延髄/脊髄の興奮から、不穏状態、耳鳴、振戦、心悸亢進、脈拍不整などの様々な症状を引き起こしてしまう危険性があり、
EDの発症とは関係無く、コーヒーの過剰な摂取は望ましくないと言えます。※コーヒー一杯あたりのカフェイン含有量が85mg~125mg程度になります。
1.Role of Caffeine Intake on Erectile Dysfunction in US Men: Results from NHANES 2001-2004
Journal:PloS one. 2014;10(4);e0123547. doi: 10.1371/journal.pone.0123547.
Author:David S. Lopez ,Run Wang,Konstantinos K. Tsilidis,Huirong Zhu,Carrie R. Daniel,Arup Sinha,Steven Canfield
※原著はこちら
2.Coffee Intake and Incidence of Erectile Dysfunction.
Journal:American journal of epidemiology. 2018 May 01;187(5);951-959. doi: 10.1093/aje/kwx304.
Author:David S Lopez, Lydia Liu, Eric B Rimm, Konstantinos K Tsilidis, Marcia de Oliveira Otto, Run Wang, Steven Canfield, Edward Giovannucci
※原著はこちら
3.Potential genetic association between coffee/caffeine consumption and erectile dysfunction: a Mendelian randomization study and meta-analysis.
Journal:Frontiers in endocrinology. 2024;15;1400491. pii: 1400491.
Author:Nana Xiang, Yanhua Hu, Wenchun Peng, Mei Luo, Hong Chen, Qiuhua Zhang
※原著はこちら
(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-12-22)
※日本性機能学会について詳しくはこちら
※新宿ライフクリニックについて詳しくはこちら