アレルギー性鼻炎は以前よりED:勃起不全の発症に関与している可能性があると推測がされておりますが、 厳密に管理された臨床試験や縦断的前向き研究が不足しているため、 いまだアレルギー性鼻炎はEDのリスクファクターとしては完全には認められていない状況になります。
アレルギー性鼻炎は、日本だけで無く世界においても重大な懸念事項であり、近年、世界中の様々な地域での発生率の急増が見うけられております。 例えば、米国では成人の約14%がアレルギー性鼻炎と診断されており、 デンマークでは成人におけるアレルギー性鼻炎の有病率は過去30年間で19%から32%へと着実に増加しており、 また中国では過去6年間で成人のアレルギー性鼻炎の有病率が6.5%も増加しているとそれぞれの国から報告がされております。 我々日本人においても花粉症などのアレルギー性鼻炎の有病率は年々増加しており、既に日本国民の半分が罹患しているとされ、 他の国々よりも我が国におけるアレルギー性鼻炎の被害は大きい傾向があるとも言えます。
アレルギー性鼻炎は鼻閉、鼻漏、くしゃみ、鼻のかゆみ、嗅覚障害など多様な症状を伴う最も高頻度な慢性気道炎症性疾患と言えますが、 これは自覚症状通りの局所的な疾患ではなく、実はアレルギー性鼻炎によって引き起こされる炎症は全身的な影響を及ぼしている可能性があります。 その影響の一端がED:勃起不全を引き起こしていると推測がされており、具体的にはアレルギー性鼻炎に伴って、ロイコトリエン、免疫グロブリンE、肥満細胞などの炎症性メディエーターなどが、 アテローム性動脈硬化症発生のプロセスに関与し、その過程においてEDが発症している可能性が提唱されております。
こちらのページでは新宿ライフクリニックの日本性機能学会専門医から、ED:勃起不全とアレルギー性鼻炎との関係について記載された近年の国際的文献3つを、
わかりやすくご紹介させて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
こちらでご紹介する文献においては、ED:勃起不全だけでなく男性の性機能の全般、また女性の性機能の全般に、 アレルギー性鼻炎が悪影響を与えているのかどうかを、調査した内容に関して記載がされております。
本研究では1034名のアレルギー性鼻炎の患者さんがアレルギー性鼻炎群として登録され、 一方のコントロール群/対照群としてはアレルギー状態を含むいかなる疾患の病歴もない、無作為に選択された422名の健康なボランティアが登録されております。
アレルギー性鼻炎の疾患重症度 (鼻閉、鼻漏、くしゃみ、鼻のかゆみ、嗅覚障害などの病勢) と男女の性機能のレベル、これらを定量的に扱う為に、 アレルギー性鼻炎の疾患重症度に関しては、その評価として視覚的アナログ尺度スコアが使用され、このスコアの範囲は0~50で、 アレルギー性鼻炎群においては、平均スコアの範囲は0~10であったとの事です。
性機能に関しては過去4週間の内容を評価しており、男性に関しては国際勃起機能指数 (IIEF) 、女性に関しては女性性機能指数 (FSFI) という、 それぞれの質問票が性機能のレベルを定量的に扱う為に使用されました。 国際勃起機能指数:IIEF は男性のEDなどを評価するための勃起機能、またオルガスム機能、性交満足度、性欲、全体的な満足度などが含まれた質問票であり、 スコアの範囲は 5 ~ 75 で、このスコアが高いほど、対象男性の性機能が優れている事を示しております。 一方、女性性機能指数:FSFIは女性の性機能を評価するために、欲求、主観的興奮、潤滑、オルガスム、満足度、性交時の痛みなどが含まれている質問票であり、 合計スコアの理論的な範囲は 4 ~ 95 で、こちらもスコアが高いほど、その女性の性機能が優れている事を示しております。
この研究の結果として、 女性のアレルギー性鼻炎の患者さんでは、その対照群と比較して、女性性機能指数 (FSFI) の総得点、ならびに主観的興奮度、オルガスム機能、性交満足度の得点が有意に低下していたとの事でした。 また鼻閉症状のスコア(r=-0.3176、r=-0.2106、r=-0.6129、r=-0.3430、r=-0.5233)、嗅覚障害のスコア(r=-0.4331、r=-0.3123、r=-0.5259、r=-0.5436)、 全体的なアレルギー性鼻炎の重症度(r=-0.2908、r=-0.3703、r=-0.3739、r=-0.4225)は、 いずれも主観的興奮度、オルガスム機能、性交満足度、およびFSFI合計スコアと有意な負の相関関係にあったとの事でした。
一方、男性においても、アレルギー性鼻炎の患者さんは、その対照群と比較して、国際勃起機能指数 (IIEF) の総得点、ならびに勃起機能、性欲、
および総合満足度が有意に低下していたとの事でした。
また鼻閉症状のスコア(r=-0.8544、r=-0.3869、r=-0.2772、r=-0.6855)、
嗅覚障害のスコア(r=-0.5048、r=-0.2904、r=-0.5607、r=-0.4733)、
アレルギー性鼻炎の疾患重症度(r=-0.5385、r=-0.2034、r=-0.3257、r=-0.4833)は、いずれも勃起機能、オルガスム機能、性欲、およびIIEF合計スコアと有意な負の相関関係にあり、
また鼻漏症状のスコア(r=-0.3711、r=-0.2680)は、全体満足度およびIIEF合計スコアと有意な負の相関関係にあったとの事でした。
他の研究においては、性機能障害を持つアレルギー性鼻炎患者において、アレルギー性鼻炎の治療後に、 女性性機能指数(FSFI)と国際勃起機能指数(IIEF)のスコアが顕著に改善した事も報告がされており、 これはアレルギー性鼻炎の重症度に応じて性機能障害が増大しているという可能性も示唆しております。
本研究の結果としては、男女ともにアレルギー性鼻炎の患者は性機能障害を発症するリスクが高く、 様々なアレルギー性鼻炎の症状の中でも、特に鼻づまりと嗅覚障害は男女ともに性機能に最も深刻かつ多面的な影響を及ぼす事が分かったとのことでした。 この 『鼻づまり』 と 『嗅覚障害』 はアレルギー性鼻炎を管理する臨床現場においても一層の注意を払う必要があると本文献では帰結されております。
こちらの文献では、男・女ともにアレルギー性鼻炎が性機能全般に悪影響を及ぼす可能性に関して記載がされておりますが、 それでは、男性に特化した性機能の問題、つまりテーマを 『ED:勃起不全』 に集約した場合はどのようになるのでしょうか? これについて記載された文献が次にご紹介する文献2.になります。
上記でご紹介した文献1.は男性・女性とわずアレルギー性鼻炎が性機能に与える全般的な影響に関して記載がされたものでした。
それでは性機能のテーマを男性のED:勃起不全症に集約した場合、アレルギー性鼻炎の影響はどのようなものになるのでしょう? こちらの文献ではまさにそうした内容に関しての検討がされております。
本研究は、台湾国民健康保険研究データベースから、2000年1月1日から2008年12月31日までの間に新たにアレルギー性鼻炎と診断された18~55歳の男性患者を 『アレルギー性鼻炎群』 として、 またアレルギー性鼻炎が無く、かつ年齢、併存疾患、服薬内容がマッチングされた男性たちを 『コントロール群』 として、 合計128,118人 (アレルギー性鼻炎患者64,059人 vs コントロール群64,059人) からデータを採取した後ろ向きの対応付がされた 『対照コホート研究』 になります。 これらの対象者は2009年12月31日まで追跡調査され、データベースにおけるED診断登録簿に基づいてEDの発症の有無が観察されました。
結果として、サンプル採取された男性患者128,118人のうち、平均追跡期間5.82年の間にED:勃起不全を発症した人は1455人(1.16%)で、 これにはアレルギー性鼻炎群の844人(患者全体の1.32%)とコントロール群の611人(0.95%)が含まれていたとの事です。 この結果にカプランマイヤー解析を実施するとアレルギー性鼻炎の患者さんにはEDを発症する有意な傾向があることが明らかになったとの事です(log-rank検定, P < 0.001)。 またCox回帰によって交絡変数を調整した後、アレルギー性鼻炎患者さんでは、EDの発症率が1.37倍(95% CI, 1.24-1.52; P < 0.001)に増加したとの事で、 このED:勃起不全の発症リスクは 『アレルギー性鼻炎の受診頻度が高い場合』 と 『4週間を超える投薬が必要な場合』 の2ケースにて高い傾向が見られたとの事です。 つまりこの結果は、アレルギー性鼻炎の重症度が高いほど、ED:勃起不全のリスクが高い事を示唆しております。
こちらの文献でご紹介している研究は観察研究になりますが、 次の文献3.では、曝露因子とアウトカムリスクの因果関係をより革新的に探求する疫学的アプローチである、 『メンデルランダム化法』 でアレルギー性鼻炎とED:勃起不全症の因果関係をさらに検証した内容に関してご紹介をさせて頂いております。。
こちらでご紹介する文献においては、『メンデルランダム化法』 でアレルギー性鼻炎とED:勃起不全症との因果関係を検証した内容に関して記載がされており、 アレルギー性鼻炎を曝露、ED:勃起不全をアウトカムとして定義し、2標本MR解析を用いてアレルギー性鼻炎とED:勃起不全の発症リスクとの因果関係を調査しております。
このMR:メンデルランダム化法(メンデルランダム化研究、Mendelian Randomization; MR)とは、 ランダム化比較試験と同様に、曝露とアウトカムの因果関係を調査する研究手法の一つで、 ゲノム情報(DNAの多型など)を「操作変数」として用い、曝露(この場合はアレルギー性鼻炎)と疾患 (この場合はED:勃起不全) との因果関係を推測するための統計技術になります。 この方法は従来の観察研究で問題となる交絡 (この場合は元々ED発症のリスクファクターである糖尿病や高血圧など) の影響を最小現に抑え、 また逆因果関係の可能性を排除することで、文献2.のような従来の観察研究と比較して因果推論をより強力に裏付ける事ができる上、 コスト削減、時間の効率化、高い実行可能性など、複数の利点があります。 本文献の執筆者によれば、メンデルランダム化法において大規模なGWASデータセットを用い、 アレルギー性鼻炎とED:勃起不全症の因果関係を調査した研究はこの研究が初めてとの事です。
データは全て公開されているゲノムワイド関連研究(GWAS)データベース(https://gwas.mrcieu.ac.uk)から抽出されたもので、 3,936人のアレルギー性鼻炎群と42,701人のコントロール群がその検証に用いられており、 その解析には、主に逆分散加重法、MRエッガー回帰法、加重中央値法を用いて、多面的発現についてはMR-PRESSOグローバル検定およびMR-エッガー回帰を用いて評価し、 異質性の評価についてはコクランのQ検定を用い、また結果の堅牢性と信頼性の検証についてはleave-one-out解析を実施したとの事でした。
結果として逆分散加重法による解析では、アレルギー性鼻炎に対する遺伝的感受性とEDの相対リスク上昇との間には正の関連が示され(IVW OR = 1.40、p = 0.01、95% CI 1.08-1.80)、 加重中央値法の結果においても、この逆分散加重法の結果と一貫した傾向が示されたとの事でした(OR = 1.46、p = 0.04、95%CI = 1.02〜2.08)。 MR-PRESSOグローバル検定(Rssobs = 13.05、p = 0.79)とMR-Egger検定(切片 = −0.01、p = 0.63)の両方にて多面的発現は検出がされず。 CochranのQ検定(P MR-Egger = 0.67、P IVW = 0.7)の結果においては、異質性がない事が示唆されました。 leave-one-out解析においては結果は堅牢であり、いかなる操作変数の影響も受けていない事が示されたとの事です。
これらの結果をまとめますと、アレルギー性鼻炎とED:勃起不全症との間には、メンデルランダム化法による解析においても、 観察研究の文献2.と同様に、有意な因果関係が成立する事が分かったとの事でした。
―Q1.「鼻炎を治せばEDも良くなりますか?」
A.改善する可能性があります。
ある研究にて、女性性機能指数(FSFI)と国際勃起機能指数(IIEF)で評価されたアレルギー性鼻炎患者の性機能障害が、
アレルギー性鼻炎の治療後に有意に改善したことが報告されております。
―Q2.「花粉症でもEDになりますか?」
A.なる可能性が有ります。
花粉はこの日本においてはアレルギー性鼻炎の最大原因の一つであり、
他のアレルゲンを原因としたアレルギー性鼻炎とその症状自体は同質なので、
花粉症が重症なほど、特に 『鼻づまり』 と 『嗅覚障害』の症状がひどいほど、
性機能の低下、またED:勃起不全発症のリスクが高まる可能性が有ります。
―Q3.「市販のアレルギー性鼻炎の薬を飲むとEDになりますか??」
A.基本的には問題ないと思われます。
薬剤性EDの原因として抗アレルギー剤に一般性は今の所ありません。
またアレルギー性鼻炎患者さんの性機能障害が、アレルギー性鼻炎の治療後に有意な改善を示した事も報告されているので、
むしろED:勃起不全症の予防上は、アレルギー性鼻炎の治療は望ましい可能性が有ります。
―Q4.「鼻呼吸の改善はED:勃起不全に効果がありますか?」
A.期待ができます。
ある研究では、アレルギー性鼻炎の症状の内、特に 『鼻づまり』 と 『嗅覚障害』 が男女ともに性機能に最も深刻かつ多面的な影響を及ぼすと報告がされているので、
鼻づまりにともなう鼻呼吸の改善は、ED:勃起不全症の改善には望ましいという可能性が有ります。
1.Nasal Symptoms Among Allergic Rhinitis Patients Could Contribute to Sexual Dysfunction.
Journal:Journal of asthma and allergy. 2025;18;219-227. doi: 10.2147/JAA.S483507.
Author:Hailing Zhang, Hongping Zhang, Peng Jin, Kena Yu, Xiaoxue Zi, Xu Liang, HongYang Zhang, Li Zhao
※原著はこちら
2.Allergic rhinitis and risk of erectile dysfunction--a nationwide population-based study.
Journal:Allergy. 2013 Apr;68(4);440-5. doi: 10.1111/all.12100.
Author:V Y F Su, C J Liu, M Y Lan, Y M Chen, K C Su, Y C Lee, T J Chen, K T Chou
※原著はこちら
3.Genetically predicted allergic rhinitis causally increases the risk of erectile dysfunction.
Journal:Frontiers in genetics. 2024;15;1423357. pii: 1423357.
Author:Peng Li, Zhaotun Meng, Liqiang Lin, Zhipeng Chen, Huaiqing Lv
※原著はこちら
(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-12-29)
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