バイアグラ (有効成分:シルデナフィル) は、もともと勃起不全 (ED) の治療薬として知られていますが、 その成分は肺高血圧症 (PH) など他の疾患の治療薬などにも転用されています。
近年、喫煙 (タバコ) が原因となる肺や血管の炎症・障害をバイアグラ (シルデナフィル) が軽減するという可能性が注目されており、 その一方で、バイアグラ (シルデナフィル) と喫煙 (タバコ) の併用による重症疾患の発生に関しての症例も報告されております。
こうしたバイアグラの薬効に対するタバコの影響を気にされている方も少なくは無いと思われ、 それが 『バイアグラ (シルデナフィル) と喫煙:タバコ』 といったユーザーによるインターネット上での検索に繋がっているものかと存じます。
こちらのページでは、3つの研究による医学文献をもとに、
ライフクリニック新宿からシルデナフィル(バイアグラ)と喫煙:タバコとの関係について、
日本性機能学会専門医の解説でこれをくわしくご紹介をさせて頂いております。
宜しければご一読くださいませ。
元々、バイアグラ (シルデナフィル) は、環状グアノシン一リン酸(CGP)特異的ホスホジエステラーゼ-5の阻害薬であり、抗炎症の作用が報告されています。 その一方で、タバコによる肺の炎症は長期的にCOPD (慢性閉塞性肺疾患) など慢性の呼吸器疾患を引き起こす重大な要因となります。
こちらでご紹介させて頂く文献では、ラットを使って喫煙による肺の炎症に対するシルデナフィルの影響を調べた実験に関して記載しております。 本研究では29匹のラットを 「喫煙群」 「喫煙+シルデナフィル群」 「対照群」 の3群に分けて、 2つの喫煙有り群においては8週間にわたって1日2時間タバコの煙をラットに吸入させたとの事でした。 また 「喫煙+シルデナフィル群」 には、タバコの煙の吸入後にシルデナフィルを10mg/kg/日で投薬しています。
こちらの結果として、統計的な有意差こそ出なかったものの、 肺の炎症スコア (浮腫、充血、出血、単核細胞浸潤などをスコアリングしたもの) については、 「喫煙+シルデナフィル群」 が 「喫煙群」 より低い炎症スコアを示し (シルデナフィル群7.08±1.66、喫煙群8.18±1.21) 、 また肺の組織のチェックアップ上では 「喫煙+シルデナフィル群」 が 「喫煙群」 に比較して、肺胞中隔肥厚および肺胞の歪みが減少していたとの事でした。
つまりこの研究は、サンプル数が少ない事も有ってか統計的な有意差は出なかったものの、 シルデナフィルの抗炎症作用が喫煙:タバコによる肺のダメージを軽減してくれる可能性を示唆し、今後の継続的な検討が期待される結果となりました。
元々、バイアグラ (シルデナフィル) が所属するPDE5阻害薬は、 血管弛緩反応を発現する事で肺高血圧症などの勃起不全以外の疾患をも改善させる作用が有ると知られています。
こちらでご紹介させて頂く文献は、ラットを使用した中国における実験に関するもので、 合計60匹のラットを2つのグループ、肺炎の原因菌の一つである 『肺炎桿菌』 とタバコの煙を吸入させた50匹の 『暴露群』 、 並びにそれらにさらされていない10匹の 『非暴露群』 (対照群) 、 に分けて検討をしたものになります。 『暴露群』 は8週間タバコと肺炎桿菌を吸入された後、シルデナフィルを4週間3段階の用量で投与されたそれぞれの群、ならびに生理食塩水を投与された群(対照群)に分けて更に検討が重ねられております。
結果としては、シルデナフィルの用量依存的に、 肺胞の形態学的分析上における、肺間質および細気管支における異常の改善が見うけられ、 そして、特にシルデナフィルを最高用量の4.5 mg/kgで投与された群においては、 アポトーシス (細胞死) 経路における実行役酵素で、アポトーシスのマーカーともなる 『カスパーゼ3』 の発現が、 細気管支壁上皮細胞にて17.71%も減少していたと報告しております。
つまりバイアグラ (シルデナフィル) は喫煙と肺炎桿菌による肺損傷を軽減する作用を示しうると、この研究では報告しております。
元々、喫煙は動脈病変の発生に関与し、脳内出血のリスクの一つともされています。 その一方でシルデナフィルは局所的な血行動態の変化を来す事もあって、発症早期の脳出血患者さんには使用禁忌とされている側面が有ります。
こちらでご紹介する文献は、ヘビースモーカーなれど大病の既往が無い53歳男性が、 シルデナフィルを使用した後で、病院に緊急搬送されたという症例報告についてのものになります。
症例では、シルデナフィルの使用直後に吐き気、嘔吐、めまいなどの自覚症状が出現し、 緊急搬送先の病院にて頭部CTをとった所、左視床の急性出血と脳室の拡大が確認され、 脳内出血と診断されたとの事でした。
この症例報告では、結論の中で、シルデナフィル (バイアグラ) と喫煙 (タバコ) の併用に関する潜在的リスクについて、 更なる研究と啓発の必要性を強く訴えております
シルデナフィル自体は安全性が高い薬剤と言えますが、長期的な喫煙者においては動脈病変が潜在している事も多く、 そうした方においては、これらの併用をする事で重篤な循環障害を引き起こしてしまうリスクもあるので、 特に高血圧や動脈硬化を既に指摘されている長期的な喫煙者においては、 シルデナフィルの使用は医師の監督下にこれを慎重にお試しになるようお願い申し上げます。
―Q1.「 喫煙中でもバイアグラ(シルデナフィル)は使えますか?」
A. 使用自体は可能ですが、喫煙によって血管や心臓への負担が大きくなっている場合、血圧の急激な変化や脳出血のリスクが増す恐れがあります。
特に高血圧・糖尿病・心疾患を持つ方は、必ず医師に相談をしましょう。
―Q2.「バイアグラ (シルデナフィル) はタバコの害を打ち消してくれますか?」
A.いいえ。バイアグラ (シルデナフィル) は研究上、タバコによる一部の炎症やアポトーシス (細胞死) を軽減させる作用は報告されていますが、
喫煙が引き起こすDNA損傷やがんのリスクなどについてはこれを防ぐ事は一切ございません。
また炎症やアポトーシス (細胞死) を軽減する作用もあくまで研究段階のものなので、タバコの害を打ち消す目的でバイアグラ:シルデナフィルを使用する事は現状、全く推奨されておりません。
―Q3.「喫煙をやめたらバイアグラ (シルデナフィル) の効果は変わりますか?」
A. 喫煙をやめる事で血管内皮機能が改善され、薬の効果がより安定・持続しやすくなるという可能性が有ります。
また禁煙後は、勃起機能そのものもが改善する症例も多く見られています。禁煙はバイアグラの効果にとっても、ED:勃起不全の改善によっても有益と言えます。
―Q4.「バイアグラ (シルデナフィル) は肺の病気の治療にも使われるのですか?」
A. はい。この有効成分:シルデナフィルクエン酸塩は肺血管平滑筋においてcGMP分解酵素であるPDE5を選択的に阻害することで,cGMP量を増加させ血管弛緩作用を発揮し
肺高血圧症などを改善させる効果が認められています。
1.Argun, S., Vural, C., Yaprak, B., Onyilmaz, T., Tuncel, D., Vatansever, S., Isken, T., Basyigit, I., Boyaci, H., & Yildiz, F. (2016). The effects of sildenafil on smoke-induced lung inflammation in rats. Malaysian Journal of Pathology, 38(1), 39–44.
※原著はこちら
2.Ren, Z., Li, J., Shen, J., Yu, H., Mei, X., Zhao, P., Xiao, Z., & Wu, W. (2020). Therapeutic sildenafil inhibits pulmonary damage induced by cigarette smoke exposure and bacterial inhalation in rats. Pharmaceutical Biology, 58(1), 116–123. https://doi.org/10.1080/13880209.2019.1711135
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3.Zhou, J., et al. (2021). Sildenafil Use, Cigarette Smoking, and Intracerebral Hemorrhage. Vascular Health and Risk Management, 17, 553–561.
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(記載:新宿ライフクリニック-日本性機能学会専門医:須田隆興、最終確認日:2025-10-13)
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