PDE5阻害薬と骨盤領域の外傷によるインポテンスに関して


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骨盤骨折とバイアグラ

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【骨盤骨折とバイアグラ】
骨盤骨折においては、その外傷の発生に伴う骨盤内の勃起関連システムの障害、 つまり血管や神経の損傷などによって、 また骨盤骨折の治療に伴う処置、つまり骨盤内出血の治療におけるTAE:選択的動脈塞栓術などの副作用として、 ED/勃起不全が発生する事が高率に有ります。
こうした骨盤骨折など外傷に伴い発症するED/勃起不全は治療が難しい傾向が有りますが、 こうした状態に対してバイアグラが著効したという報告が有りました。
交通事故は、健康に暮らしていた生活に突然訪れ、 生涯に渡る深刻な後遺症を発生させたり、最悪なケースにおいては生命を奪うという、、 高度成長を遂げた先進社会における重要かつ高度な予防を要するテーマです。
こうした交通事故の外傷的影響は無数に有りますが、 この中で骨盤骨折はリーサルなものの一つであり、 特に不安定骨盤骨折は死亡率が30%にも及ぶとされている、 非常に緊急性の高い状態と言えます。
骨盤内には小腸・大腸などの消化器の一部、 膀胱・尿路・尿道などの排尿のシステム、 そして前立腺や精路などの生殖に関連したシステムなど、 複数のシステムが内包されています。
骨盤はこうした重要な臓器・組織を保護するために非常に頑健な構造をしていますが、 交通事故などにおける想像を絶する大きな外力は、 この頑丈な骨盤すらも破壊し、骨折させてしまいます。
骨盤が内包する沢山の臓器・組織は、骨盤骨折などによって外傷的影響を受け、 その結果、沢山の生理学的システムに障害を発生する事が有ります。 この中でQOL=「生活の質」に関連するものとしてはED/勃起不全の発生等が挙げられ、 上述したように難治性のEDになりやすいとされています。
本項ではこうした骨盤骨折によって発生するED/勃起不全に関して、 そのバイアグラによる改善の報告などを中心に記載させて頂いております。 どうぞご参照くださいませ。


【骨盤骨折の影響によって発生するED/勃起不全】
勃起は様々な神経や微細な血管が関連しあって成立する非常に繊細な生理機能で、 これらを内包して保護している骨盤自体が損傷している状況、 つまり骨盤骨折などにおいては、そのED/勃起不全が発症しうる原因は無数に有り、 その治療に関しては、難航する事が多いと認識されています。
特に骨盤骨折など致命性が高い外傷においては、 もちろん必ず優先されるべきは救命であり、 その結果としてのED/勃起不全の発生など事後のQOLの低下は、 外傷の発生時点では優先順位がだいぶ下位になってしまいます。
しかし命が助かり、外傷発生から時間が経過して、 社会に復帰した人が直面するのは日々の生活であり、 長きに渡って苦しむのはこうした外傷が残した後遺症である事も事実です。
昨今の医療は事象の発生以降のこうした日々の苦しみにもスポットを当てており、 生きがいのある生活を取り戻す為の診療も段々に発達してきている状況です。
骨盤骨折の影響下に発生するED/勃起不全は、 骨盤骨折を発生させた大きな外力や骨盤骨折に伴う骨盤の離断・離開によって発生した神経や血管の障害が、 主体と考えられます。
また骨盤骨折による主要な死因の一つとして、 骨盤骨折に伴う骨盤内の大量出血という状態が有り、 これに対する緊急の止血処置としてTAE:選択的動脈塞栓術という処置が有ります。 これはカテーテルを使用して、出血源となっている動脈に人工的に詰め物をする事で止血をなし得る、 こうした状況においては救命上、 非常に重要かつ不可欠な処置です。 しかし詰め物をする動脈が勃起に関連する血管の分枝元であったりする場合には、 処置の結果として動脈性EDが合併症として発生する可能性が有ります。
つまり骨盤骨折の結果として発生するED/勃起不全は、 その外傷を事由としたものとその外傷に対する処置を事由としたものに、 その原因が大きく分かれる可能性が有りますが、 これらに共通した治療上の概念としては、 こうした勃起システムの物理的損壊に伴って発生するEDは治療が、 難航する事が多いという事です。


【骨盤骨折後のEDに対するバイアグラの改善効果の報告】
骨盤骨折後のEDに対するバイアグラの改善効果の症例報告は、 交通事故による骨盤骨折によって右内陰部動脈からの活動性出血を示す、 23歳の症例におけるものとの事です。
症例は上記の活動性出血によって出血性ショックが生じており、 救命上、大量の輸血と右内腸骨動脈に対するTAE:選択的動脈塞栓術を施行する必要が有りました。 救命には成功したものの、これらの処置後、数か月してED/勃起不全の発症を自覚するにいたり、 バイアグラ25㎎の適応となったとの事です。 勃起の客観的かつ標準的スコアだるIIEF5において、 バイアグラ適応前は3点という極低値であったものが、 バイアグラ適応後は21点と非常に顕著な勃起機能の改善に至り、 またその後には、バイアグラなしでも完全勃起に至るようになったとの事でした。


【外傷性に発症するEDの治療の今後】
今回、ご紹介させて頂いた症例は、 バイアグラ適応後の勃起機能の改善程度や、 改善確認後にはバイアグラが無くとも完全勃起に至るようになった、顕著な改善状況を勘案すると、 骨盤骨折後のED発症原因の主体たる神経や血管の損傷もしくは、 人工的な動脈塞栓処置が原因ではなく、 精神的後遺症としての心因性EDがED発症原因の中心である可能性が示唆されます。
骨盤骨折に関連した血管損傷・塞栓や神経損傷などの器質的なものが原因である場合には、 ここまで明らかな治療効果を示す事は難しいと思われ、 外傷後の精神的ストレスが原因となった心因性EDが本態であったと考えれば、 この結果が解釈しやすいと思われました。
現在のファーストラインのED/勃起不全の治療方法においては、 こうした骨盤骨折などの外傷ケースでもバイアグラなどの局所血管拡張薬の運用がED治療の主体となりますが、 勃起機能の正に中心的な器官・組織の本質的な損壊・欠損に至る状況においては、 バイアグラなどのPDE5阻害薬の効果が発揮されないケースも大いに想定されます。
今まではこうした状況においては、芳しい効果をしめす治療体系は確たるものが存在しなかったとも言えます。 しかしiPS細胞などを介して、人類がつかんだ莫大な再生医療の未来の可能性は、 こうした難治性EDに対しても治癒の可能性という希望の光を投げかけています。
今後の再生医療の発達は重大な器質的原因で発症したED/勃起不全における、 従来とは全く違う治療アプローチを提供してくれる可能性が有り、 それは自己細胞の培養による、 欠損した組織・器官・臓器の拒絶反応のない移植手術であり、 究極の所では、事故によって欠損したペニスを再生できるようにもなる可能性が有ります。
現時点は、未来から俯瞰するとED/勃起不全治療の大きなパラダイムシフトのタイミングである可能性が有ります。 今後のED/勃起不全に関連した再生医療に関する報告が多いに期待されます。
(記載:日本性機能学会専門医-須田隆興)


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