シアリスにより肺血栓塞栓症を発症が否定でいなかった症例



ケースレポート:シアリス使用により肺血栓塞栓症が疑われた例

新宿でシアリス処方なら新宿ライフクリニック


当ホームページをご覧頂いている方ならご存知のシアリスですが、現在、世界で最も処方数が多いED治療薬となっております。
米国では、最も処方数が多い医薬品ベスト100以内に入っているそうです。
これだけ処方数が多いと、偶発的に、シアリス服用時に何らかの疾患が発症する場合があります。
バイアグラレビトラも然りです。
しかし、病院や地域単位で考えると偶発的と思われる例でも、世界中のデータを見て、初めて因果関係が分かるケースもございます。
偶発的と決めつけるのでなく、その原因を考察し、報告し、データを蓄積する事が重要です。

ED治療薬の添付文書、副作用に、非常に稀ではあるが血栓塞栓症の記載があります。 しかし、実際のところはいかがなのでしょうか? シアリス服用時に、肺血栓塞栓症を生じた例が報告されましたので、ご紹介いたします。
尚、血栓塞栓症の経験は、当クリニックではございません。

まず肺血栓塞栓症という病気について簡単に説明いたします。
皆さんがご存知である病名で言うと、エコノミークラス症候群です。
狭い飛行機内で、じっと動かずにいると、下肢にうっ血が生じ、うっ血により血液が凝固しやすくなります。
それが、何かの拍子に、静脈循環血中に流入すると、静脈血が流入する第一の臓器である肺の血管を詰まらせることになります。 これが肺血栓塞栓症ですが、程度に因っては、死に至る怖い病気です。 飛行機内だけで生じるのでなく、長距離トラックドライバーなどでも、しばしば生じます。
静脈のうっ血が原因となることもございますし、遺伝的に体質的に血栓症が生じやすい方もいらっしゃいます。
肺血栓塞栓症は肺梗塞と呼ばれることもあります。


61歳男性。
右胸痛を自覚し、救急外来を受診。
胸痛は2日前に出現し、次第に増強し、血痰を生じるようになっておりました。
喫煙歴が、13年×20/本程度認められている以外、心疾患の危険因子はありません。
既往歴として、慢性B型肝炎を30年前から罹患しています。
シアリスを使用するようになったのは2年前からで、その他の薬剤に関しては、服用を否定しています。

右胸痛を自覚するおよそ15時間前に、シアリスを性交渉セックス前に服用しています。
8時間の間隔をおいて、二人の事なった女性と性交渉セックスを持っています。
二人目の女性と性交渉セックスを行った数時間後に、男性は突然の右胸痛を自覚しています。
胸痛は、翌日にはさらに次第に増強し、血痰を伴うようになっています。

血圧123/99mmHg、心拍数69回/分、呼吸数20回/分、体温36.8度、酸素飽和度96%。
胸部聴診上、心雑音は聴取せず、しかし、呼吸音は、右下肺野で減弱していました。
末梢の浮腫みや、ばち状指は認められておりません。
胸部レントゲンでは、右下肺野に異常影を認め、肋骨と横隔膜で形成されるアングルは、鈍くなっていました。
心電図では、Ⅲ、aVfでQ波を認めています。
Dダイマーは、0.6μg/mlと軽度ながら上昇し、CT検査では、急性肺血栓塞栓症が疑われました。 血栓は、右肺動脈の区域枝に存在し、その抹消は、くさび状の陰影を示していました。 少量の胸水が、右側に貯留しています。 血液検査では、凝固系の精密検査である、プロテインCは正常範囲内(98%)、プロテインS(83%)、アンチトロンビンⅢ(97%)、 凝固第11因子(124%)も同様に正常範囲を示しています。
凝固第8因子は222%と増加を認めています。
ループス抗凝固因子、凝固第5因子ライデン変異、抗リン脂質抗体は、ともに陰性でした。
(凝固系の検査異常がある場合、血栓症や出血傾向をきたします。)

治療は、血栓を溶解(線溶)することになります。
積極的に血栓を溶解するか、または、凝固系を抑制する事により、相対的に線溶が強くなり、血栓を溶解させるかの方法が取られます。
ここでは、抗凝固療法が選択されています。
低分子へパリンを12時間おきに皮下注射にて投与が開始され、ワーファリンが経口投与されています。
ワーファリンが、国際標準化プロトロンビン時間で2~3の間に調整ができたのちは、低分子ヘパリンの投与を中止しています。
抗凝固療法は6カ月間継続し、胸部CTにて治癒が確認されています。

シアリス(タダラフィル)は、選択的PDE5阻害剤であり、ED治療薬として、非常に多くの男性に処方、使用されています。
特徴は、17.5時間という、半減時間の長さであり、臨床的には、シアリス20mgを服用すると、36時間もの間、勃起機能が改善いたします。 認容性も良好である事が知られています。
しばしば認められる副作用は、頭痛、ほてり、胃腸障害、筋通ですが、多くは軽度であり、時間経過に伴い消失いたします。
バイアグラ(シルデナフィル)、レビトラ(タダラフィル)ともに、特発性肺高血圧症に承認されていますが、 ごく稀に血栓塞栓症の発症の可能性があるかもしれない事が、言われておりました。
心筋梗塞や一過背脳虚血発作、脳卒中、網膜動脈閉塞症、静脈血栓症が、バイアグラ服用後に発症したとする報告もございます。
シアリス服用後の肺血栓塞栓症の発症に対しても、関心が寄せられています。

今回の例では、シアリス服用後、比較的短い時間で肺血栓塞栓症を発症しております。 患者も医師も、シアリスが引き金として作用させた犯人ではないかと疑っています。 しかし、血液検査で凝固第8因子の増加が認められました。 凝固第8因子は、欠乏すると血友病Aの原因となりますが、増加が認められた場合は、血栓症のリスクが高まることが知られています。 その為、今回の例では、この凝固第8因子の増加が、肺血栓塞栓症の原因と考えられました。
この例以外にも様々な血栓症の例が報告されています。 たとえばですが、バイアグラを12週以上使用していた例での静脈血栓症の発症です。 しかし、この例でも、凝固系の異常が認められ、アンチトロンビンⅢとプロテインSの減少が認められたとの事です。 その他にも、シアリス服用男性の肺血栓塞栓症の発症例で、プロテインCの濃度低下が原因と考えられたものもあります。 これらから、バイアグラ、シアリスと血栓症との因果関係に疑問がもたれる、 つまり、バイアグラやシアリスが原因と考えるよりも、生まれ持っての素因が潜んでおり、 それが、たまたま顕在化した例が多そうであるうとしています。

薬剤の副作用の因果関係は、通常は、経過など、臨床判断でなされます。 しかし、担当に当たる医師は、その薬剤が、本当に原因となっているか、慎重に判断すべきです。 簡単に、原因が薬剤にあると決めるのではなく、その他の原因も、可能な限り考慮、精査すべきです。 稀な副作用は、薬剤との因果関係を指摘する事は困難な作業ではありますが、多くのデータの蓄積が望まれます。 特に、ED治療薬は、残念ですが、これに対して、悪いイメージを抱いている医師も、まだ多くいます。 原因薬剤に祭り上げられかねません。


参考文献
A case of Acute Pulmonary Thromboembolism after Taking Tadalafil.
Tuberc Respir Dis 2012;73:231-233


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